審査員総評

YOSHIJI TAKEHARA

竹原 義二

利便性以外の要素で住宅を選ぶ人が増えている中、
街との接点を考えてデザインする重要性を改めて感じた。

今年もコロナに翻弄された一年だった。この総評を書いている時点では国内は一旦の落ち着きを見せているが、海外では新たな変異株が急拡大し始めている。時々刻々と状況が移り変わり誰にも先行きが見通せない中、それでも私たちは建築をつくり続けていかなければいけない。コロナ禍で自宅での滞在時間が長くなり「どこに住むのか・自分の拠点をどこに据えるのか」という住まいの土台の部分を、利便性以外の選択肢で選ぶ人が増えてきている。それは、街に帰属する意識の高まりでもあると思う。今年の最優秀賞に選ばれた「和合の家」を見て、街との接点のデザインに対する平面計画の重要性を再認識した。建築の内側で自分だけに最適な空間をつくりこんでいくということを超えて、近隣に対してほどよい間合いをはかりながら街並みをつくっていく。工業製品の持つ良さと自然素材の持つ良さを共存させながら素材を吟味して、街にとっても自分にとっても居心地の良い空間を整えていく。設計者は、今ある素材を工夫を凝らしながら職人と力を合わせて一つのものにつくりあげていくことはできるが、素材自体を生み出すことは難しい。その点で建材メーカーであるケイミューの果たす役割は大きい。今年も数多くの優れた作品に出合うことができたが、やはり近年同様SOLIDOを使った事例が多かった。街並みを形成する建築の姿に、表情に変化のある素材が選ばれているということの現れだと思う。来年も単体の建築としての魅力以上に風景とつながる作品を期待している。

審査委員長 竹原 義二

1948年徳島県生まれ。建築家石井修氏に師事した後、1978年無有建築工房設立。2000〜13年大阪市立大学大学院生活科学研究科教授、2015〜19年摂南大学理工学部建築学科教授。現在、神戸芸術工科大学環境デザイン学科客員教授。日本建築学会賞教育賞・日本建築学会賞著作賞・村野藤吾賞・都市住宅学会業績賞・こども環境学会賞など多数受賞。近年は幼稚園・保育所、障がい者福祉施設など、住まいの設計を原点に人が活き活きと暮らす空間づくりを追求している。

HAJIME KISHI

岸 一

個を優先した色や形状に特化するのではなく、
地域特性などを考慮したデザインが多く見受けられた。

コロナ禍で建築業界も様々な問題を抱える中、今年も昨年同様多くの応募があり、審査には力が入りました。設計事務所の応募の増加とともにサイディングの使い方がレベルアップし、建築作品と言えるような設計評価の高い応募が増加しているからだと言えます。今年の竹原賞は自然素材の木とSOLIDOのハイブリッド的なデザインで、外構計画にも気を配るなど、周辺環境や地域の活性化にもつながる可能性を秘めた作品でした。また、戸建優秀賞は寄棟屋根が特徴の平屋で、シンプルであるにも関わらず、ゆったりとした落ち着きを演出し、設計センスの高さが感じられました。他の作品も、金属サイディングによる多色のセパレーション使いでプラスαの新しさを加えたり、グラッサによる屋根壁一体化のデザインも多く見受けられ、少しの新しい考え方が加わることで、さらなる可能性が広がることを示した作品が多くありました。非住宅においても周辺環境に配慮し、素材感を生かしたデザインが多く、緑豊かな自然を背景に違和感なく溶け込み、絵になる建築となっている作品も見受けられました。以前より期待していたことですが、建築物に好きなデザインを施し、個を優先するような色やかたち、素材に特化するのではなく、建築物そのものが建っている立地環境や地域特性、そして建築特性の視点に立って考え、周辺エリアにも良い影響を与えられるようなデザインが作られる時代になったと今年は強く感じさせられました。今後はどのような新しさを見せてくれるのか、ますます来年に向けての期待感が高まります。

岸 一

審査員 岸 一

有限会社アトリエJIGSAW代表取締役。1957年岡山県生まれ。大手ハウスメーカー設計部で商品開発を担当後、1993年有限会社アトリエJIGSAW設立。住宅設計のみならず、商業施設やまちづくり提案等の企画立案業務や建材の商品開発(プロダクトデザイン)等の業務をこなす。掛川市城下町風まちづくり事業建設大臣賞など受賞。