SPECIAL INTERVIEW 2022竹原賞受賞者 濱田 猛 / 審査委員長 竹原 義二

SPECIAL INTERVIEW 2022竹原賞受賞者 濱田 猛 / 審査委員長 竹原 義二

「丘上の平屋」

滋賀県甲賀市、丘の上に建つ二世帯住宅。
親世帯が暮らす「主屋」、子世帯が暮らす
「ハナレ1」、
ゲスト用の「ハナレ2」の3棟を
真横に並べ、全長36.4mもある共通の
大屋根でゆったり包み込む。
人と暮らしと自然が心地良く混ざり合う、
その設計について竹原氏が訊ねた。

審査委員長 竹原 義二
最優秀賞「竹原賞」受賞者 濱田 猛

ひとつ大きな屋根の下、
歴史の風をゆったりと享受する。

今年は応募総数1,020件の中から濱田さんの作品を選ばせていただきました。受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。もう本当に嬉しくて、受賞の一報をいただいた時は飛び上がって喜びました!

まず図面を見て思ったのが、普通はこれだけの長さを持てる住宅はなかなかない。しかも平屋で、敷地にも余白があって。桜の木がたくさん植えられているので、非常に歴史深い土地だということもわかる。これだけの敷地だと分割して建てることが多いのに、分割せず贅沢にこの細長い建物でしょう?そこに度肝を抜かれました。

甲賀は江戸時代に城下町として栄え、今でもあちこちに史跡があります。この家のすぐ裏手にも200年前に建立された大池寺というお寺がありまして、まずはこの歴史ある地域に根ざした建物にしたいという想いがありました。甲賀市内を一望する高台にあり敷地も2000uと広大なので、全居室を横に並べて南向きにするプランが実現できるんです。丘の上に1本線を引くような感覚で設計しました。

静と動。重厚さとやわらかさ。
相反する世界観が場面転換のように。

南側はものすごく開放感があるのに、北側には一切窓がないですよね。美術館みたいに重厚な建物が、実は裏へ回るとパッとイメージが反転して全面ガラスの間戸という。そのメリハリと潔さもよかった!

審査委員長 竹原 義二

北側はクールに見せておきながら、南側はすごくやわらかく自然の中に開いていく。そんな対比を作りたかったんです。

最優秀賞「竹原賞」受賞者 濱田 猛

北側の壁が全面SOLIDOというのもいいですね。これを杉板と珪藻土でやっていたらここまでインパクトもなかったでしょうし、SOLIDOだからこそ軒の構造用合板の表情まで生きてくるんだと思います。

SOLIDOは工業製品なのに自然素材と同じように一つひとつ表情があって、表面の白華する部分なんかも味わい深いですよね。何より鉄黒の格好良さに惹かれました。鎧張りにした時に陰影ができて彫りが深く見えるのも魅力です。

思わずハッと心奪われる、
美しき軒先の黄金比について。

それとね、今日僕がどうしても見たかったのがこの軒先。こうやって椅子に座って見上げた時の軒先のライン。これが非常に素晴らしい。内法の高さはどれぐらいですか?

審査委員長 竹原 義二

高さは窓部分で2,300o取っています。軒先の長さは1,500あり、室内からの登り梁とつながりを持たせています。

最優秀賞「竹原賞」受賞者 濱田 猛

ほう。普通の軒先はもっと低くて、だいたい2,000を切るのがいわゆる格好いいバランスなんですよ。ところが2,300という高さでこうもバシッと決まるのは、軒先に1,500もの長さを持たせているからなんですね。それと、梁の先に水平のラインを作ってるでしょう?三角形の切妻屋根に水平のラインを乗せているので、この梁の長さと軒先の高さが見事に仕上がってる。いや、今日こうして現物を見てあらためて驚きました。

ありがとうございます。軒先のディテールにはかなりこだわりました。現場に来て何度も打ち合わせをして、大工さんにもだいぶ苦労してもらいました。

自然と対話し、人と対話することで、
失いかけた大切な心を取り戻す家。

他にこだわったところはどこですか?

審査委員長 竹原 義二

日本古来の住宅で使われていた3つの要素「軒下」「縁側」「間戸」を取り入れながらも、和の印象が強くなりすぎないように天井を抜いて開放的にしたり、棟木をなくすなど現代的に仕上げました。

最優秀賞「竹原賞」受賞者 濱田 猛

各居室だけでなく、母屋のご夫婦の部屋もそれぞれ個室にしてあるところが現代的ですよね。一緒に暮らすけど、ほどよい距離感はちゃんと確保する。生活の中で連続性があったものをバチッと断ち切る一方で、外部と内部の連続性はしっかり生み出す。そこも非常に現代ならではの感覚だと思います。

そうですね、今の時代だからこそ自然とのつながりを感じながら暮らすことが幸せのひとつなのかなと。冷暖房が効いたところで一日を過ごすよりは、外に出て風を感じたり、四季の移ろいに心動かされたり。せっかく立派な桜もありますし、ご家族や地域の方々とお花見を楽しめるよう縁側のスペースを一部拡張して“花見舞台”もつくりました。

桜だけじゃなく、夏には縁側で真正面から甲賀の花火大会を観賞できるとか。

はい。その時はご近所の皆さんが30人ぐらい集まってワイワイ過ごすそうです。

コロナで人と人との間に距離ができている中、暮らしの楽しさを地域の方々にも分け与えることができる。この家にはそんなお施主様の覚悟と包容力を感じますね。

そうですね。お施主様は元々この敷地のすぐ隣に住まわれていました。昔から慣れ親しみ、愛着を持った地域だからこそ実現できた住まいだと思います。

元々日本人が大切にしてきた地域性やコミュニティのあり方を建築の力で再現できていることが素晴らしいですね。これからもいい建築を期待しています。

濱田 猛

1975年大阪府生まれ。2010年に株式会社濱田設計測量事務所のデザイン部門として「HAMADA DESIGN」を立ち上げ、住まいの新築はもちろん、リノベーション、インテリアなど幅広く手がける。グッドデザイン賞、建築人賞奨励賞、BUILD Architecture Awards 2020(イギリス)、リフォームリノベーションコンクール大阪府知事賞などを受賞。空間の中で活動する人・物・自然といった要素を見極め、効率的に編集し、新たな時間の流れを生む「空間」を創出する。

竹原 義二

1948年徳島県生まれ。建築家石井修氏に師事した後、1978年無有建築工房設立。2000〜13年大阪市立大学大学院生活科学研究科教授、2015〜19年摂南大学理工学部建築学科教授。現在、神戸芸術工科大学環境デザイン学科客員教授。日本建築学会賞教育賞・日本建築学会賞著作賞・村野藤吾賞・都市住宅学会業績賞・こども環境学会賞など多数受賞。近年は幼稚園・保育所、障がい者福祉施設など、住まいの設計を原点に人が活き活きと暮らす空間づくりを追求している。