KMEW DESIGN AWARD 2022 KMEW DESIGN AWARD 2022

審査員総評

JUDGE'S COMMENT

ケイミューデザインアワードの
審査委員長 竹原氏、審査員 岸氏より
2022年の応募物件に対する
総評をいただきました。

審査員総評
審査委員長 竹原 義二
審査委員長

変動の大きな時代だからこそ
地に足の着いた、
人々の拠り所となれるような建築を

建築の内部で長い時間を過ごしても閉塞感をあまり感じないようなプラン

建築の内部で長い時間を過ごしても
閉塞感をあまり感じないようなプラン

2020年4月に新型コロナウイルス対策として初めての緊急事態宣言が発令されてから早くも2年半が経過した。この状況に慣れてしまい、押し寄せる物価高の波に揉まれながらもなんとか建築をつくり続けている。そんな中、ロシアによる軍事侵攻が影を落としている。時代を積み重ねてきた建物が破壊され、暮らしの拠点である住まいが一瞬にして奪われる恐怖は計り知れない。
コロナ禍以降に増えたように感じる、建築の内部で長い時間を過ごしても閉塞感をあまり感じないようなプランの応募作が今年も多かった。最優秀賞である「丘上の平屋」はこの点に加え、敷地との調和が優れていた。戸建優秀賞の「ウチノニワ」も外に対して閉ざしているように見せながらも、2階へと吹抜けでつながる中庭で間合いをはかるプランは面積以上に広がりを感じられ良くできていた。

内と外の関係性をさらに密に解き明かしていけば新しい境地が見えてくるような気がしている
内と外の関係性をさらに密に解き明かしていけば新しい境地が見えてくるような気がしている

内と外の関係性をさらに密に
解き明かしていけば
新しい境地が
見えてくるような気がしている

内と外の関係性を再考し、光の取り込み方、空気の動かし方を検討することでレイヤーがかった奥行き感のあるプランが生まれる。そしてこの時に大切なのが素材を吟味する、ということである。適材適所に材を宛てがうことで、建築は経年しても色褪せず、むしろ深みを増していく。変動の大きな時代だからこそ地に足の着いた、人々の拠り所となれるような建築をつくっていきたいものである。そして、内と外の関係性をさらに密に解き明かしていけば新しい境地が見えてくるような気がしている。時を越えていくという点において、来年は新築だけでなく、優れたリノベーション作品の更なる応募を期待している。

審査員 岸 一
審査員

環境や地域特性に配慮した作品や
外観と外構が美しく調和した、
完成された作品が多く見受けられた

持続性のある建築を計画することが当たり前のように大切になってくる

持続性のある建築を計画することが
当たり前のように大切になってくる

今年は環境や地域特性に配慮した作品が多く、特に目を引きました。代表的なものとして、環境と建築が有機的に融合した「竹原賞」や自然環境をそのまま生かし共生共存するリフォーム賞の「真鶴の平屋」などが挙げられます。建築のみならず、外構やランドスケープまで計画された作品もあり、外観と外構が美しく調和してはじめて「ひとつの建築」だと言えるような、完成された作品も多く見受けられました。今後は周辺環境や土地の背景、歴史なども視野にいれた持続性のある建築を計画することが当たり前のように大切になってくる、という意識の表れではないかと思います。

あえて素材の違いを楽しんでいるかのような、枠にとらわれない発想も
あえて素材の違いを楽しんでいるかのような、枠にとらわれない発想も

あえて素材の違いを
楽しんでいるかのような、
枠にとらわれない発想も

昨年に続きSOLIDOの作品が多く見られましたが、これらの考え方を肯定するかのように採用理由は多岐に渡り、周辺環境に調和させたいという思いや、シンプルな外観デザインだからこそ素材感を強調させたいといった考え方など、様々な場面で活かされていたのが印象的でした。応募作品も年々シンプルデザインの傾向にありますが、今年は外装材の存在感だけに頼らず、窓のデザインやその配置など、細部のディティールに至るまで気を配ることも大切であるということに気づかせてくれた作品も多かったように思います。そうした細部の工夫を追求することで、新たな視点が生まれたり、外装材の使い方やデザインにも、思いがけない斬新な影響を与えたりするのではないかと思います。また素材の使い方では、木・吹付・金属などの異素材にサイディングを組合わせるなど、複数の素材を用いた作品も多く、あえて素材の違いを楽しんでいるかのような、枠にとらわれない発想も多く見られました。何事も考え方次第で変化させていけること、いつの時代においても設計者には柔軟な発想が必要なのだということを主張しているようでした。次回もこのような柔軟性のある作品に出会えることを大いに期待したいと思います。

竹原 義二
竹原 義二

1948年徳島県生まれ。建築家石井修氏に師事した後、1978年無有建築工房設立。2000〜13年大阪市立大学大学院生活科学研究科教授、2015〜19年摂南大学理工学部建築学科教授。現在、神戸芸術工科大学環境デザイン学科客員教授。日本建築学会賞教育賞・日本建築学会賞著作賞・村野藤吾賞・都市住宅学会業績賞・こども環境学会賞など多数受賞。近年は幼稚園・保育所、障がい者福祉施設など、住まいの設計を原点に人が活き活きと暮らす空間づくりを追求している。

岸 一
岸 一

有限会社アトリエJIGSAW代表取締役。1957年岡山県生まれ。大手ハウスメーカー設計部で商品開発を担当後、1993年有限会社アトリエJIGSAW設立。住宅設計のみならず、商業施設やまちづくり提案等の企画立案業務や建材の商品開発(プロダクトデザイン)等の業務をこなす。掛川市城下町風まちづくり事業建設大臣賞など受賞。