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【暮らしにキャンプを。#1】わたしが移住して、グランピング施設をはじめた理由

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都会を離れて地方に移住し、自らキャンプ場を営みながら暮らす人たちも少しずつ見かけるようになってきました。南アルプスの麓、山梨県北杜市でグランピング施設「FLORA Campsite」を運営する安納恵さんもその一人。オシャレで快適なグランピングの楽しみ方はもちろん、あえての不便さを提案しキャンプや自然の魅力を体感して欲しいと話す安納さんが移住するまでのエピソードと「FLORA Campsite」の魅力を、2回に分けてお届けします。

東京から山梨県北杜市へ。移住して感じた
自然の魅力と自分のなかの変化

自然の木立ちと傾斜地を生かしたグランピングサイト。1日5組限定で、ゆったり自然が満喫できます

「東京からこちらに移住してきて、一番よかったのは自然を感じるようになったことです。忙しいのは変わらないんですけど、子どもを幼稚園に迎えに行く途中に空を見上げると、当然のように木々が風にそよいでいたり、小鳥のさえずりがどこからか聞こえてきます。夏の夕暮れ時には、喧しいぐらいに鳴いていたヒグラシも、陽が沈むと一斉に鳴き止んで、驚くほど静かになるんです。と同時に、今年の夏は猛暑だったから紅葉がきれいだろうなと想像してみたり。秋のキャンプ場もいいでしょ?紅葉もぎりぎり撮影に間に合って良かったですね(笑)。このキャンプ場は甲斐駒ヶ岳の東にあるから、秋はすごく陽が落ちるのが早いんですよ。だから『カイコマの裏に陽が入っちゃうから、それまでに片付けて子どもを迎えに行かないと』とか。これから冬に入ると、虫や鳥がいなくなって本当に静かです。空気も澄んでいるから星空も本当に綺麗なんです。そういう四季に応じた自然の小さな変化に気づけるようになったのが自分にとって嬉しい変化で、毎日が充実していると感じます」

「FLORA Campsite」を運営する安納恵さん。火おこしには着火剤を使わず、あえて「不便なキャンプの楽しさ」を味わってほしいそう

子どもの頃のキャンプ体験と
「田舎暮らしがしたい」という父の言葉

隣接する雑木林で、焚き火に使えそうな枯れた杉の葉、松ぼっくり、小枝などを探す恵さん

そう話すのは、南アルプスの麓、名水の里で知られる山梨県北杜市でグランピング施設「FLORA Campsite」を運営する安納恵さん。恵さんが移住を決めたのは、「田舎暮らしがしたい」という父・中尾豊さんの一言がきっかけでした。「生来、僕は野外で過ごすのが好きでね。中学生の頃には、野宿しながら自転車で北海道を一周したり。子どもが産まれてからも近所の公園でバーベキューをしたり、家族でよくキャンプに行ってましたね」(豊さん)。「それも1泊とかじゃなくて、5泊6日とかなんですよ。小さい頃はそれが普通だと思っていて友だちと旅行の話をしていると、どうも様子が違うなって(笑)」(恵さん)。それでもあくまでキャンプは趣味だったという豊さん。しかし7年前、知り合いから紹介されて近くの温泉に家族で遊びに来たときに、この土地に懐かしさを感じたと言います。「30年ほど前、近くの尾白川渓谷まで滝行で何度か遊びにきていた場所だと思い出したんです」。土地そのものが持つ魅力と不思議な縁、そして「田舎暮らしがしたい」という気持ちに背中を押されるように、豊さんは帰りの車の中から不動産屋に電話してすぐに土地探しを依頼、この土地の購入を決断します。「それからここに移住するまでは、10カ月もかからなかったですね」と、豊さんは当時を笑いながら振り返ります。

ご両親の中尾豊さん、弥生さんと安納恵さん。「この辺は、杉の木がたくさん植わっているから枯れた葉っぱもたくさんとれますね」

「子どもに自然のなかで遊ばせたい」と、
結婚後すぐ、ご主人を東京に残して山梨へ

キャンプに欠かせないコーヒー。恵さんは、焚き火でお湯を沸かし、コーヒーミルで豆から挽く本格派

突然知らされた両親の移住計画に、恵さんは戸惑うことなく、ご両親と妹の美鈴さんと一緒に移住することを決意します。ご主人の毅さんと結婚式を挙げた3カ月後のことでした。「やっぱり、私も自然が好きだったんだと思います。高校でも草木などの園芸を勉強していました。結婚を機に山梨県に移住した高校の同級生がいて、何度か遊びに行ったら、やっぱりいいなって」。恵さんは、東京生まれ。当時はウェディングプランナーとして自宅のあった練馬と職場のある表参道を往復する生活していたが、自然に触れる機会が少なくなって、情報に左右さているような生き方に、どこか地に足が着いていないような不安定さと息苦しさも感じていたといいます。「主人は宇都宮の田舎の出身なんですけど、家の裏には小さな山があって、子どもの頃はいつもそこで遊んでいたそうなんです。その話を聞いて、羨ましいなって。だから自分の子どもには、そういう自然のなかで遊ぶ経験をさせてあげたい気持ちが強くて、父から移住の話を聞いた時も『わたしも行く!』と即決でした」。こうして恵さんは、仕事のあるご主人を東京に残し、ご両親と美鈴さんと一緒に移住にすることになったのです。

グランピングサイトだけでなく、1日13組限定のキャンプサイトも併設。区画のない、手づかずの自然の中で思う存分キャンプが楽しめます

目の前にあるのは雑木林。家族一丸で
ゼロからスタートした土地の開拓

甲斐駒ヶ岳に陽が落ちると、急に暗く、寒くなる。グラピングサイトには、焚き火だけでなく、薪ストーブも用意されています

移住場所は、自然豊かな南アルプス甲斐駒ヶ岳と日向山の懐で、登山道の脇に位置する傾斜地。前オーナーがずっと手付かずにしていたため木々が伸び放題に生い茂る雑木林になっていました。そこで「ユンボ(パワーシャベル)を使って、ゼロから土地の開拓をしていったんです。えっ、経験があったのかって?全然(笑)。前職はイラストレーターなので、まるで畑違い。資格をとるところから始めたんですよ」(豊さん)。雑木林を切り拓き、木の根っこを22本抜いて、傾斜は残しながらも土地を平らに造成していきました。しかし当初は、具体的な設計図があるわけでもなく、カフェをやろうかなとか、敷地にトレーラーハウスを入れて活用しようかなとか。そんなとき「たまたま朝の情報番組を見ていたら、グランピング施設の紹介をしていて『これだ!』と思ったんです」。"グランピング"とは、グラマラスとキャンピングを掛け合わせた造語。テントを設営する煩わしさがなく、手ぶらで快適に自然体験ができる施設のこと。ここ数年人気を集め、全国各地に施設がオープンしているものの、7年前には、その言葉自体もまだ知らない人が多かった。土地の起伏や傾斜は生かしつつサイトを造成し、グランピング用のテントを設営、共用施設の設計やインテリア、キャンプ施設や調理道具など、家族総出で1年かけて整えていったといいます。「立案は私なんですが、提供するサービスやインテリアづくり、ホームページの制作などは、娘たちふたりがすべてやってくれました。美鈴は、いま子どもが小さいのであまり手伝いに来られないのですが、恵も美鈴のサポートがなければここまで頑張れなかったのではないかと思います。そして何より縁の下の力持ち、家内の弥生の存在がなくして今日の『FLORA Campsite』はありませんでした。いい機会なので、この場を借りて御礼を言わせてください(笑)」。

ユンボと鍬で土地を平らに造成する当時の写真。「恵と美鈴のふたりも、肉体労働を頑張ってくれました」と豊さん。

「だいぶきれいに整地しちゃったので、昔のように木々がもっと高く伸びてくれるといいですね」と淹れたてのコーヒーを飲みながら話す恵さん、豊さん、弥生さん。

恵さんは「オシャレで快適なグランピングの楽しみ方はもちろん、あえての不便さを提案し、キャンプや自然の魅力を体感してほしい」と言います。次回は、こうして6年前にスタートしたグランピング施設「FLORA Campsite」の魅力をお伝えします。

日向山の登山道脇にあるこの看板が「FLORA Campsite」の目印。秋冬も、焚き火が楽しめるとキャンプ好きたちが集まるそう

施設情報

FLORA Campsite in the Natural Garden

住所 山梨県北杜市白州町白須8813-2
電話 0551-45-9164(水曜日を除く17:00まで)
※臨時休業で繋がらない場合がございます。その場合はメールにてご連絡ください。
営業時間 10:00~17:00(水曜日を除く)
定休日 火、水 (冬期1~3月は 火、水、木休)