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【第2回 新素材探検「古材」編】古材の循環でつくる新しい空間とインテリア

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連載企画「新素材探検」第2回目は、環境負荷軽減の面から注目を集める古材にクローズアップ。長野・諏訪にある建築建材のリサイクルショップ「リビルディングセンタージャパン」(以下、リビセン)の取り組みを紹介します。家屋などから捨てられるはずだった古道具や古材をレスキュー(引き取り)し、捨てられるはずだったモノに再び光を当て、資源を循環させる文化の構築を目指すリビセン。目指すのは「誰もが楽しく、たくましく生きられる世界」だといいます。

役目を果たした古道具や古材を“レスキュー”し、循環させる

まだ肌寒い2月のある日、リビセンのスタッフが向かったのは山梨・小淵沢に立つ築50年の一軒家。長らく空き家でしたが、新しい借主と出会い、飲食店にリノベーションすることが決まっています。依頼は、住まいに残された家具や小物を引き取ること。リビセンスタッフの百瀬貴成さんが、依頼主に確認しながら室内にあるモノを丁寧に選別していきます。無垢材の文机、今では見かけなくなった木製ハンガー、古いアコーディオンや木箱に入ったアイロン、昭和の風情が漂う玉のれん、染付小皿……。中には「そんなモノもいいんですか?」と依頼主が驚くものも。こうして捨てられるはずだった家具や建具、古材を引き取ることをリビセンは「レスキュー」と呼び、2016年の立ち上げ以来、大切に続けられています。レスキューしたモノを新しい持ち主に循環させることで環境負荷を減らしたい。そして時間が育てた古くて美しいものを次の世代につなげていきたいという思いで、リビセンは立ち上げられました。「まだ使えるモノを捨てるのは心苦しかった。レスキューしてもらって誰かにつないでもらえることが嬉しいです」と依頼主は話してくれました。

古道具をレスキューするリビセンスタッフの百瀬貴成さん(左)

リビセンが目指しているのは、「次の世代につないでいきたいモノと文化をすくい上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色をデザインすることで、新しい文化を作ること」。そのため、レスキューするモノ選びの基準は、「次世代に残したいものかどうか」だといいます。例えば木材なら、基本は無垢材。鉄や竹、ガラスなどもレスキューします。そして、レスキューしたモノは今の暮らしになじむように手を加えることもあるそう。「たとえば足踏みミシンの脚部分は、古材と組み合わせてテーブルにリメイクできるし、羽釜の蓋は、スツールの座面に生まれ変わります。古い背負子(しょいこ・荷物を背負うために使われた木製の道具)は、壁に立てかけてタオルハンガーにするとかっこいいんですよ」と百瀬さん。価値がないと思っていたものも、磨いたり見方を少し変えたりすると素敵になる。古道具や古材を通じて、そんな新しい体験と文化を提供したいとリビセンは考えています。

古いガラスの食器をリメイクしたペンダントライト。シェードとコードを自由に組み合わせ可能

レスキューできる地域は、基本的に上諏訪にあるリビセンの店舗から車で片道1時間圏内(それより遠い場合は、出張交通費をプラスして訪ねることも)。それにもかかわらず、口コミやメディアで話題となり、年々依頼が増え、今では月20件以上の依頼があるそうです。空き家が社会問題となっている中、「解体はまだ考えていないけど、まずは荷物を整理したいというニーズが大半です。松本、佐久、小淵沢など様々なエリアに行くので、養蚕や寒天作りに使われた道具などレスキューするモノにも地域柄が表れておもしろいんです」と百瀬さんは話します。

小淵沢の家からレスキューしたモノ。洗浄などメンテンスをした上で売り場に並びます

別の日には、リビセンがリノベーション工事を進めている木造の四軒長屋の古材レスキュー現場を訪ねました。剥がした床や天井から、再び活用できる古材を一枚ずつ手作業でレスキュー。古材はメンテナンススタッフへ引き継がれ、一つひとつ釘を抜いて丁寧にホコリを落としていきます。時には、今では見られない大工の手仕事の跡が残る無垢板や床柱をレスキューすることも。海外の古材に比べて国産の古材は輸送に伴う石油の消費量が少なく、環境への負担を削減できます。何より「身近で生まれた物を循環させることが自然であり、理にかなっている」とするのがリビセンの考え方です。

リノベーション中の長屋。地元の信用金庫と不動産屋と共同でリビセンが立ち上げた新会社でテナントを募集し、地域の拠点として活用予定。玄関や窓のサッシからは、懐かしい模様の板ガラスをレスキュー

釘抜きや清掃などの古材のメンテナンスは手作業で行います

ショップもカフェも。3フロア丸ごと楽しめるリビセンを訪ねる

レスキューした古道具や古材は、上諏訪にあるリビセンのショップで販売します。1階が古材ショップとカフェ、2・3階が古道具ショップになっています。古材店は一般的にプロ御用達など敷居の高い店舗が多いですが、カフェでコーヒーを飲むついでに、気軽に立ち寄れるのがリビセンの魅力です。プロの設計者や施工者も訪れますが、お客さんのほとんどは一般の方。売り場に並ぶ古材はテーブルの天板に使える大きな一枚板から床や壁に貼れる小さな板材までさまざまで、無垢の一枚板が3,000円程度で購入できるためDIY初心者でも気軽に購入できます。スタッフに気軽に相談できるので、用途に応じた提案も受けられます。大きな窓から古材売り場が見れるカフェ店内のデザインには、「古く美しいモノを次世代につなげる新しい文化を作るためには、建築のプロよりも“普通の人”を巻き込むことが大切」という思いが込められています。

リビセン1階のカフェ「live in sense」。店内にはカウンターを始め多くの古材を使用

リビセンを立ち上げたのは、東野(あずの)唯史さん、華南子さんご夫妻。全国各地に滞在しながら設計と施工を行う空間デザインユニットとして活動していた二人は、少ない予算でユニークなデザインを表現できる古材を昔からよく使っていました。建物の解体現場を見つけるたび声をかけて古材を分けてもらうことを続けるうちに、「気軽に行けて安く買える古材屋があれば良いのに」と感じるように。そんな中、下諏訪の老舗旅館「ますや旅館」のリノベーションの仕事を通じて建物の歴史を引き継ぐ意味を実感したこと、さらにDIY好きの聖地であり、世界最大級の建材のリサイクルショップ、アメリカ・ポートランドの「リビルディングセンター」を訪ねたことが、リビセン立ち上げの契機になったといいます。

JR下諏訪駅から徒歩10分の位置にある「リビルディングセンタージャパン」

本国アメリカのリビセンは、アクセスしやすい街なかにあり、お客さんも家族連れや若いカップル、老夫婦まで一般の方が中心。古道具や古材をカジュアルに選ぶ姿、ボランティアスタッフが生き生きと働く姿は、古いモノを循環させるシステムが生活の中に根付き「古材を使ってコミュニティを良くする」という理念を体現していました。2015年に新婚旅行で訪れ、その光景にカルチャーショックを受けた二人は「日本にもこの風景を作りたい」と日本版リビセンの立ち上げを決意。意外にも本国からスピーディーに許可が降り、翌年に計画がスタートします。諏訪に拠点を定めた決め手は、新宿からも名古屋からも特急で約2時間という都市部からのアクセスの良さでした。予想は的中し、お客さんの約7割が県外からで、店舗の駐車場には全国各地のナンバープレートが並んでいます。

時代もジャンルも様々な古家具が並びます

建具コーナーは大きさ別に選ぶことができます

古材のおもしろさを体感できる、リビセンの空間デザイン

古道具や古材を自分の空間に取り入れるヒントをくれるのが、リビセンのデザインチームが設計を手がけた個性豊かな店舗です。例えばリビセン1階のカフェ「live in sense」は、床や壁、家具に古材や石、トタンを活用したショールームのような空間になっています。古材を貼り合わせたテーブルや古い木製窓をパッチワークのように組み合わせた壁など、多彩なアイデアが古いモノを楽しむヒントをくれます。「古材は社会的意義があるから選ぶ」だけでなく、「かっこいいなと思ったものがたまたま古材だった」というように、出会う間口を広げたいという思いがあります。また、古材といえば経年の風合いや手仕事の味わいをイメージしますが、それは楽しみ方の一つにすぎません。カフェのカウンターの腰壁は新材に見えますが、実は朽ちた古材の表面を削ってきれいな木目を見せて仕上げたもの。「古びた表情だけでなく、さまざまな表現ができるから古材は飽きない。大切なのは表情ではなく、古材を使うことそのものにある」と華南子さんはいいます。

階段のささら(両側に走る斜め材)として使用されていた板を使った、カフェのカウンターの棚

カフェの入り口は、古い木製建具を組み合わせたユニークなデザインの窓壁

リビセンが手がけた東京・武蔵境にあるレストラン「お酒と料理 えいよう」は、店主と縁のあった古材を再利用してテーブルを制作するなど、思い出も引き継ぎながらデザインしています。リビセンから徒歩3分の「カフェと暮らしの雑貨店fumi」は、元々薬局だった建物をリノベーション。あらわしにした梁や古い柱にモルタルを組み合わせ、薬局時代の薬棚や建具など古いモノを使いながら、昔からあったかのようなインテリアをしつらえました。

東京・武蔵境にある「お酒と料理 えいよう」の店内

長野・諏訪にある「カフェと暮らしの雑貨店fumi」の店内

これまでリビセンのデザイン事業は店舗が中心でしたが、近年は住宅のリノベーションも始めています。きっかけは、「解体してレスキューするよりも丸ごとリノベーションして活用するほうが多くの材料を救える」と感じたことでした。今までの方法でレスキューできる古材は、住宅一軒あたり500キログラム程度ですが、木造住宅を一軒解体すると約17トンもの材料が出てきます。さらに東野夫妻自身が諏訪の寒さに悩んだことから、断熱性の高い「エコ断熱住宅」をリノベーションの目標としています。「私たちは単に懐古主義で古材を活用しているのではなく、環境負荷を減らしたいという思いが根底にあります。住宅の断熱性を高めれば冷暖房によるCO2の排出を減らせるし、暮らしの満足度も格段に上がる。古さを生かした家も素敵だけれど、快適な環境とのちょうどいいバランスを探ることが目標です」と華南子さん。

築45年の住宅をリノベーションした東野夫妻のご自宅。元の建物から出た木材や土を使って内装を一新

目指すのは「誰もが楽しく、たくましく生きられる世界」

ゴミだと思っていたものの見方を変えて価値を見つけること、モノが生まれた背景を知って大切に思うこと。その体験を通じて、リビセンに関わった人が今より少し楽しく、たくましく生きられることを目指したい、と華南子さんは話します。「アメリカのリビルディングセンターに行ったとき、80歳ぐらいのおばあちゃんが3メートルぐらいある古材を一人でひょいっとトラックに積んで、軽やかに帰っていったんです。スタッフはそれを見ても手伝わず、『頑張って!』と声をかけるだけ。自分でやろうとする姿を応援するんですね。私たちも、そんな風にスタッフが手取り足取り教えるのではなく、『自分で作れる』『壊れても直せる』という楽しさを感じてほしいし、そんな世の中に貢献したいと思います」。

今回、リノベーションしたご自宅で東野華南子さんにお話をうかがいました

リビセンを立ち上げた東野唯史さん、華南子さんご夫妻。「5年ぐらい前かな?僕の髪が長い時代の写真です(笑)」と唯史さん 撮影:伊藤菜衣子

そうした取り組みの一つが、店舗で毎月行っている古材を使ったDIYワークショップです。参加者の大半がDIY初心者ですが、好みの古材を選ぶことから始まり、スタッフに工具の使い方のレクチャーを受けながら制作して、約4時間でテーブルやキャビネットが完成します。レクチャーの過程では道具やオイルの扱い方、天板の板が剥がれた時の対処方法など、今後自分で作ったり直したりする方法を伝えている点が印象的。「もし板がささくれても、直し方を知っていれば捨てずに使い続けられますよ」というスタッフの言葉に、たくましさを感じます。

リビセンで実施している「古材パッチワークテーブル」のワークショップ風景

均一な長さ・厚みにした「製材古材」を使うため初心者も安心

店舗情報

リビルディングセンタージャパン

住所 長野県諏訪市小和田3-8
電話 0266-78-8967
営業時間 11:00〜18:00
定休日 水曜、木曜