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「新素材探検」は、日々進化する身近な商品の素材や技術開発について、その道のプロにお話を伺う連載企画。第1回目は「フローリング」です。
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【第3回 新素材探検「SPS樹脂」編】「CHOPLATE」が、まな板にも、お皿にもなる理由

  • #SPS樹脂
  • #まな板
  • #新素材

身近な製品に使われている新しい素材や技術に迫る連載企画「新素材探検」。第3回目は、SNSを中心に話題となり、22万枚以上(2025年11月現在)を売り上げているヒット商品「CHOPLATE(チョップレート)」を取り上げます。切り分けた食材をそのままお皿として食卓に出せる“まな板になるお皿”。その独自の機能性と質感を支えているのは高機能なSPS樹脂でした。開発を手がけた大阪のプラスチック成形メーカー河辺商会の代表取締役社長・福田康一さんに、開発秘話と素材を使いこなす技術についてお話を伺いました。

薬剤師から転身、町工場の3代目社長へ

福田さんは、もともとは全く異なる業界にいらっしゃったと伺いました。まずは河辺商会の歩みと、ご自身の経歴について教えていただけますか。

「CHOPLATE」を手に「最初は家電をつくりたかったんです」と笑顔で語る福田さん。手前にあるのは自動車部品などの成形サンプル

福田さん:河辺商会は、創業者の河辺光美が大阪市西成区で立ち上げた会社です。じつは私と創業家に血縁関係はなく、私の父が材料商社の営業マンとして河辺商会を担当していた縁で2代目社長としてヘッドハンティングされたのがはじまりです。私自身は薬学部を出て薬剤師として働いており、当初は家業を継ぐつもりはありませんでした。しかし27歳の頃、父から「会社を継がないか」と打診されまして。全く畑違いの業界でしたが、29歳で入社を決意しました。入社前にメッキ加工メーカーで1年半ほどモノづくりの修行をし、その後河辺商会に入社しすぐにタイ工場の立ち上げを任され、8年間駐在しました。日本に戻り社長に就任したのは2019年頃です。

自社製品への挑戦と、クリエイティブユニットTENTとの出会い

まな板になるお皿「CHOPLATE」。モッツァレラチーズ、トマトを切った後、お皿に移し替える手間がいらず、バジルを添えてそのままカプレーゼとして提供できる

「BtoB(企業間取引)」の受注仕事を中心とされていた河辺商会が、なぜ自社商品である「CHOPLATE」を開発することになったのでしょうか。

福田さん:私がタイから戻った2014年頃、当社の売り上げの大半を占めていたメーカーからの受注仕事が激減していました。工場の稼働率も下がり、社員も疲弊している。「このままではいけない」と痛感しました。そこで、既存の技術を生かした新規営業や自社商品の開発を模索し始めました。しかし、社内でアイデアを出しても、正直なところ「何をつくっていいかわからない」「つくってもどう売ればいいかわからない」という状態でした。

そこでクリエイティブユニットのTENTと組むことになったのですね。

TENTは2011年に中目黒で活動を開始したクリエイティブユニット。プロダクトデザインを中心にジャンルを横断してデザインやディレクションを行い、iFデザイン賞金賞をはじめ、国内外で数多くのデザイン賞を受賞している

福田さん:はい。自分たちだけで考えるのは限界があると思い、堺市産業振興センターに相談に行きました。プロダクトデザイナーと組みたいと伝えたところ、紹介された冊子の中に、フライパン「JIU(ジュウ)」を手がけた藤田金属×TENTの開発秘話が載っていたんです。「JIU」を作っている藤田金属は、大阪府八尾市の町工場で「こんな町工場がこんな良いものをつくっているとは」と驚いた記憶がありまして(笑)。それで迷わずTENTさんにコンタクトを取りました。

TENTがこれまで手がけたプロダクトを販売する実店舗「TENTのTEMPO(テントの店舗)」

TENTのTEMPO(テントの店舗)

所在地 東京都世田谷区池尻2-15-8
営業時間 14:00~18:00(平日)、13:00~18:00(土日)月休(平日は不定休)
※最新情報はTENTの公式Xをご覧ください。

「CHOPLATE」が生まれるきっかけになった一言とは

商品のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

河辺商会の成形工場の様子。自動車部品や家電部品の製造で培った高度な技術力が強み

福田さん:最初、私は「家電の部品屋」としての強みを生かして、何かメカニカルなものや家電のようなものをつくりたいと思っていたんです。VRゴーグルをつくりたいなんて話もしました。でもTENTさんから提案されたのは、ただの黒いまな板でした。「なんでまな板なんですか?」と聞くと、TENTさんは「河辺商会さんは、ずっと黒物家電(テレビやオーディオ)の部品をつくってきたから、黒い樹脂を扱うのが得意ですよね。だから、黒いまな板をつくりましょう」と。

なるほど。河辺商会が実際にできること、強みを生かす提案だったわけですね。そこから、まな板にもお皿にもなる「CHOPLATE」のコンセプトは、どのように固まっていったのでしょうか?

開発初期のプロトタイプ。最初は四角い形状や、フチの立ち上がりが異なるものなど試行錯誤があった

福田さん:TENTさんからの2回目の提案があった時、まな板のデザインはまだ四角い形状でした。そのスケッチを見た当社の若手社員が、ポツリと言ったんです。「これ、刺身を切って食べる時に皿に移さなくていいのがいいですね」と。その一言で、TENTのデザイナーの青木亮作さんがハッとして、「お皿に移さなくていいってことは、つまりお皿らしくすればいいんだ!」と確信を得て、現在の丸い形状と果物の汁や醤油がこぼれ落ちないように、平らな板状から縁を少し付けた形状に変わっていきました。日常の何気ない不便さが、商品の核となるコンセプトに変わった瞬間でした。

ちょっとしたフルーツを切って出したい時にもこれ一枚で便利。ナイフの刃当たりも計算されている

高機能素材・SPS樹脂の特徴と、立ちはだかった壁

まな板にも、お皿にもなる「CHOPLATE」は、どのような材料が使われているのでしょうか?

「食洗機対応」「電子レンジ対応」「高硬度」。ふだん使いのお皿として十分な機能を備える

福田さん:「CHOPLATE」に採用したのは、出光興産が開発した「SPS(シンジオタクチックポリスチレン)」という樹脂です。採用した理由は、電子レンジに対応できる耐熱性と、包丁を使っても傷がつきにくい硬度にあります。ただ、この素材は扱いが非常に難しいんです。通常のプラスチックは金型温度が80℃〜120℃程度で成形できますが、SPS樹脂は130〜140℃まで上げないといけません。高温で成形するためには、水ではなく油を使った特殊な温度調節機や金型を直に温めるヒーターが必要ですし、金型の熱が外部に逃げないよう断熱板も必要になってきます。

SPS樹脂を成形するための「CHOPLATE」専用の特殊な設備。高温での成形管理を行っている

一般的なプラスチック工場では、扱うのが難しい素材なんですね。

「CHOPLATE」の成形を行う金型。130〜140℃という高温に維持し、断熱板で熱をコントロールしている

福田さん:そうですね。もともと河辺商会には耐熱性が求められる車載部品や家電商品の部品をつくっていたので設備が揃っていました。他が真似しようと思っても、まず設備投資から始めないといけない。これが大きな障壁になると思います。実際、「CHOPLATE」と同じようなものをつくろうとしたメーカーがあったようですが、上手くいかなかったと聞きました。

「不良品」に見えた模様が「美味しい景色」に変わった瞬間

素材開発において一番苦労された点はどこでしたか。

SPS樹脂にガラス繊維を配合することで、軽量ながら叩くとカンカンと音がするほどの硬度を実現

福田さん:一番苦労したのは「見た目」でした。SPS樹脂は強度と反りを矯正するためにガラス繊維を30%も混ぜているのですが、成形するとその繊維が表面に浮き出て、白い筋のような模様(フローマーク)になってしまうんです。出来上がってきた最初の試作を見た時は、私もTENTさんも「うわぁ……」と絶望しました(笑)。工業製品としてみれば、「外観不良」でしたから。

そのフローマークは、どのように解決されたのでしょうか。

表面には微細なシボ加工が施されている。ガラス繊維の浮きを目立たなくさせ、独特のマットな質感を生み出した

福田さん: 金型の表面に微細な凹凸をつける「シボ加工」を施すことで、ガラス繊維の浮きを目立たなくさせました。さらに決定的だったのは、TENTの青木さんが試作品を自宅で使ってみた時の発見です。「あんなに嫌だった模様が、食材を乗せると焼き物や石のような『素材の味』に見えて、食材が美味しく見えた」と。私たちが工業製品として「隠すべき不良」だと思っていたものが、生活者の視点では、「豊かなテクスチャ」に変わる。あえてこのムラを味として生かすデザインにしようと考え直しました。ガラス繊維の模様とシボの凹凸を馴染ませることで、傷が付きにくい硬度は確保しながらマットで独特な風合いをもつ「CHOPLATE」の質感を表現できたんです。

一晩で予約”1500枚“の衝撃と、「CHOPLATE」の素材開発で広がる展開

発売後は予約が殺到するほどの反響だったそうですね。

レコードジャケットのようなパッケージもTENTがデザイン。一つひとつ手作業で検品・梱包を行い、お客様のもとへ届けられる

福田さん:最初はTENTさんのオンラインストアで販売を開始しました。正直なところ、「まあ100枚くらい売れたらいいかな」と思っていたんです。ところが、予約開始直後から注文が殺到しまして。なんと一晩で1500枚近くのオーダーが入ったんです。最初は「在庫がない!どうしよう!」とパニックでしたが、この経験から「自分たちがつくったものが、ダイレクトにお客様に届く」という手応えを強く感じました。今まで自分たちがつくっている部品が何に使われているか知らなかった社員たちが、「これ、うちでつくった商品やで」と家族や友人に自慢できるようになったのが、一番の成果だと思っています。

現在ではお皿だけでなく、ナイフやボウル、お箸などシリーズ商品も増えていますね。これらはどのような経緯で生まれたのでしょうか。

燕三条の「藤次郎」とコラボレーションした「CHOPLATE KNIFE」。お皿の上でスムーズに切れるよう刃の形状にもこだわった。ピザなどの大きな食材も、まな板を使わずテーブルで切り分けられるのも魅力

福田さん: 「CHOPLATE」非常に硬いお皿なので、その上で食材を切るには、切れ味が良く、お皿と相性の良いナイフが必要です。そこで、日本を代表する刃物の産地、新潟・燕三条の包丁メーカー「藤次郎」さんとコラボレーションして「CHOPLATE KNIFE」をつくりました。 パンやフルーツはもちろん、お肉もスムーズに切れるよう「波刃」を採用し、食卓で安全に使えるよう刃先を丸くしたり、刃がテーブルに付かないサヤを付属させたりと、細部までこだわっています。

産地の技術との掛け合わせですね。ボウルやお箸についてはいかがですか?

福田さん: 「CHOPLATE BOWL」は、SPS樹脂の“電子レンジ対応”“硬くて割れない”という特性を最大限に活かした商品です。ただの食器ではなく、「下ごしらえ・調理・食事」を一つで完結できる道具として開発しました。硬度があるのでマッシャーで芋を潰したり、泡立て器を使っても傷がつきにくく、電子レンジや冷凍庫にも対応しています。

「CHOPLATE BOWL」なら、マッシャーで潰す、電子レンジで加熱する、食べる、保存する、がこれ一つで完結する

最新作の「CHOPLATE CHOPSTICK」というお箸も、実は全体にSPS樹脂を使用しています。 一般的な樹脂のお箸は、食洗機で洗うと劣化したり、曲がってしまったりすることがあります。しかしSPS樹脂は耐熱性が高く、非常に剛性が高い。だからこそ加工には苦労しましたが、先端を1.8mmという極細にすることができました。魚の小骨も掴みやすく、表面には微細な凹凸加工を施しているので麺類も滑りにくい。まさに素材の強みをフル活用したお箸ができたと思います。

「CHOPLATE CHOPSTICK」の先端はわずか1.8mm。SPS樹脂の硬度を生かし、食洗機対応ながら極細の箸先を実現した

お皿の素材であるSPS樹脂の特性が、カトラリーや調理道具にも適していたわけですね。

福田さん: そうなんです。「まな板になるお皿」から始まりましたが、この素材を軸に、今後もさまざまな技術と掛け合わせながら、生活を豊かにするシリーズを広げていきたいですね。下請け仕事だけでは得られなかった喜びを原動力に、これからも自社商品の開発など挑戦を続けていきたいと考えています。