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暮らしのアイデア
ウチもソトも楽しいホテル案内 ♯1 奥多摩の自然をまるごと味わえる「Satologue(さとローグ)」
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部屋にこもってくつろぐだけがホテルではない。建物や庭のデザイン、地域の自然や歴史、さらに周辺スポットまで楽しめるのが滞在型ホテルの醍醐味。第1回目の「ウチもソトも楽しいホテル案内」は、2025年5月、奥多摩にグランドオープンした沿線まるごとホテル「Satologue」をご紹介します。
JR青梅線に誕生した、沿線まるごとホテル「Satologue」とは
JR新宿駅から青梅行きの電車に乗って、終点の青梅駅で奥多摩行きの電車に乗り換える。車窓からの風景も、青梅駅を過ぎるころから住宅が建ち並ぶ街の風景から山間の自然豊かな風景に徐々に移り変わっていく。車内には、登山用のリュックを背負った年配のご夫婦やカラフルなトレッキングウェアをまとった女友達が、スマホを見ながらこれから歩くルートの確認をしている。そう、JR青梅線の青梅駅から奥多摩駅間は東京アドベンチャーラインと名付けられ、都心暮らしの者にとっては、登山やキャンプ、トレッキングや川下りなど、ほとんどアウトドアを楽しむ人が乗る電車なのである。都心から1時間ちょっと電車に乗るだけで、東京とは思えないような自然豊かな風景が広がり、ちょっとした旅行気分に浸れる。

JR青梅線「鳩ノ巣駅」。駅舎が「沿線まるごとホテル」のロビーを兼ねている
「Satologue」があるのは、青梅線の古里駅と鳩ノ巣駅のちょうど中間あたりだが、ホテルからは鳩ノ巣駅で降車するようにと案内があった。ホームを降りて無人の改札を抜けると「沿線まるごと」と書かれた暖簾がかかり、地元のスタッフが送迎車へと誘導してくれる。この鳩ノ巣駅自体がホテルのロビーになっており、スタッフはさながらホテルのコンシェルジュというわけだ。渡された「沿線まるごとパスポート」には、この地域の事業者と創り上げた沿線の物語や、「Satologue」に込めた想いが書かれている。

「沿線まるごとホテル」の暖簾がかかった鳩ノ巣駅と「沿線まるごとパスポート」
ここで「Satologue」が誕生した背景について説明したい。全国各地で地域活性化やビジネス創出を支援する「株式会社さとゆめ」と「東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)」が共同出資した会社が「沿線まるごとホテル株式会社」である。「沿線まるごとホテル」は、JR東日本の駅舎や鉄道施設などをホテルのフロントとして活用し、沿線にある集落の空き家となった古民家をホテルの客室へ改修し、さらにその地域に暮らす住民がホテルのキャストとなって接客・運営を行うことで、沿線をまるごと楽しめるホテルをその地域全体で構築するプロジェクトである。「Satologue」はその最初の施設で、2024年5月にレストラン、サウナがオープンし、そして2025年5月25日には客室が完成しグランドオープンを迎えることになった。奥多摩地域にあるホテルは、まだ「Satologue」しかないが、ゆくゆくは別の古民家を拠点にしたホテルも開業して小さな点をつないで面にし、滞在型の観光やマイクロツーリズムの創出を図りながら地域の活性化を目指している。

奥多摩の自然をまるごと味わう、古民家を改修したレストラン
送迎車を降りて、まず案内されたのがレストラン棟である。目に入ってきたのは、軒が低く横長の窓いっぱいに切り取られた奥多摩の木々の緑だ。建物は、ここに建っていた古民家の柱や梁を活かして改修し、もともと床座で暮らしていたというこの家の習慣を踏襲して窓に沿ったカウンター席に座れば、奥多摩の山々の緑とその下を流れる多摩川の清流を見ることができる。

レストラン内は杉、桧、椹などの日本で昔から使用されてきた木材を用い落ち着きのある空間。カウンター席の両隣には、テーブル席と半個室があり、それぞれの場所からまた趣の違う奥多摩の自然の風景を楽しむことができる
レストラン「時帰路(TOKIRO)」では、シェフが奥多摩の自然素材を活かし、フレンチベースの調理法で料理した品々が提供される。多摩川上流域の豊かな水で育ったワサビや新鮮な川魚、地元で収穫した野菜や柚子など地域の食材を使用する。今後は敷地内の畑でシェフが育てた新鮮な野菜やキノコなども使っていく予定とのこと。また、鹿のハツ、産卵後やヒレが傷ついたヤマメ、小ぶりの治助芋(じすけいも)など、市場に出回らない食材にも新たな価値を生み出していくという。オープン前に、特別に宿泊者の朝食メニューを用意してくれた。どの品も地元で採れた食材をていねいに調理したものだが、主菜の多摩川で採れたヤマメは、ハーブでマリネして低温でじっくりコンフィされ、身も骨も食べられる柔らかさと香りの余韻が印象に残るじつに美味しい一品である。


朝食は桐箱に入って提供され、お味噌汁は自家製の味噌玉にその場でお出汁をかけていただく演出

レストラン棟1階のラウンジスペース。ソファに座って、外の眺めや読書が楽しめる
奥多摩の自然とつながる、極上の薪サウナ体験
レストラン棟をはじめ、サウナ、宿泊棟など、「Satologue」 のすべての建物は、瀬戸内海に浮かぶ移動式ホテル「guntû(ガンツウ)」などを手がける建築家・堀部安嗣さんが設計を担った。堀部さんは「すでにそこにある価値のあるものを見つめ、それらに気付くことのできる環境を作り出すのが、これからの建築の大きな役割である」という思いのもと、「Satologue」の設計にあたったという。そんな堀部さんがぜひ体験してもらいたいと薦めるのが、サウナである。サウナ「風木水(FUKISUI)」は、敷地にあったコンクリート造の倉庫を改修したもので、林業で栄えた歴史を持つこの地の薪を使用した薪サウナである。多摩川から引き込んだ水を利用した水風呂に浸かり、近くの滝の冷気が流れ込む場所で外気浴をすれば、奥多摩の風土を肌身で感じ自然とつながった気持ちになる。街中では決して味わうことのできない清々しいサウナになっている。


元倉庫の下の階を活用し、サウナ室は檜の半丸太で仕上げている。サウナ棟の前と、川の方へ少し下ったところにも緑に囲まれた外気浴スペースがある
部屋の空間も、フィールド散歩も楽しめる滞在型ホテル

自家農園のある川辺から、緑に埋もれたように佇む宿泊棟を見上げる
そして、2025年5月25日にオープンしたのが宿泊棟である。レストラン棟と調和する全4室の小さなホテルだが、多摩川を望むテラスは奥多摩の自然とつながる場所として広くとられ、逆に客室は柔らかい繭のような白いヴォールト天井で、自然の中でも安心してくつろげるよう設計されている。夜に包まれる前の静かな夕暮れ、テラスで川のせせらぎを聞きながらくつろぐ夜、小鳥のさえずりと爽やかな空気で満たされる朝、それぞれの場面や時の移ろいを、奥多摩の自然とともにゆっくり楽しむことのできる空間になっている。

広いテラスでは、デッキチェアに腰かけてゆったりくつろげる

丸みのあるヴォールト天井の客室。テラスを望むソファは、座面が斜めに切られており体勢を選ばずにくつろげる
もともとこの地域は林業で暮らしを立てる家が多く、「Satologue」の敷地には、かつて林業のかたわら養魚場を営んでいた頃の遺構のような建造物や廃屋が点在していた。それも「活かせるものはなるべく活かす」というコンセプトから、コンクリートの養魚場の生簀は自家農園やビオトープとして生まれ変わり、古くなった給水設備も再生させ、川から引いた水と手積みの石垣で造ったワサビ田を設けている。滞在した際には、フィールド内での薪割りや野菜の収穫体験、ビオトープでの生き物観察など、奥多摩の自然を体感できるさまざまなアクティビィを楽しむことができる。また、チェックアウトした後も、電動アシスト自転車や電動トゥクトゥクをレンタルして、奥多摩のさまざまな見どころを巡ることができるようになっている。「Satologue」は、青梅線沿線に広がる奥多摩の自然をまるごと味わえるまさに滞在型のホテルなのである。


左/レストラン棟の入り口に飾られた林業を営んでいた頃の集落の写真 中/自家農園での収穫体験 下/多摩川の渓流の眺めを電動アシスト自転車に乗って散策できる
施設概要

Satologue さとローグ
住所 | 東京都西多摩郡奥多摩町棚澤1 |
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施設 | 客室(ツインルーム4室)、ラウンジ、レストラン、サウナ(全禁煙) |

アクセス | JR 青梅線「古里」駅 徒歩15分 / JR 青梅線「鳩ノ巣」駅 徒歩20分 ※JR青梅線「鳩ノ巣」駅から送迎あり (送迎車14:35頃出発) |
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駐車場 | あり※台数に限りあり |
問い合わせ | TEL 0428-85-9310 MAIL admin@satologue.com |