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ウチもソトも楽しいホテル案内 ♯2 歴史ある職人の町で、ギャラリーに泊まる体験。富山「Bed and Craft」

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250年の伝統がある木彫りの町、富山・井波。この地に生まれた一棟貸し切りの宿「Bed and Craft」では、滞在しながら職人の手仕事に触れる体験ができます。宿の外を歩けば地域の職人の仕事や歴史ある社寺建築に出会い、この町で受け継がれ、今も息づくものづくりの文化に触れることができる。そんな魅力あふれる町、井波を訪ねました。

江戸時代から木彫りの技を受け継ぐ町、井波

東京駅から富山の新高岡駅までは、北陸新幹線でおよそ3時間。レンタカーに乗り換え、田園が広がる砺波平野を走ること40分、大きな木彫りのモニュメントが迎える井波地区に入ると、山々に囲まれた木造の町並みがしっとりとした風情を漂わせていました。

木彫刻の工房が立ち並ぶ、井波の八日町通り。写真提供:(公社)とやま観光推進機構

富山県の南西部、南砺市に位置する井波は250年以上の歴史がある「木彫りの町」。住人の40人に1人が現役の彫刻師で、その技術は国内各地の寺社仏閣の建築に生きています。井波彫刻の源泉、瑞泉寺門前の八日町通りには木彫刻の工房が立ち並び、看板や屋根飾りにも繊細な彫刻が施されているのが印象的。通りを歩くと木槌とノミの音が聞こえ、明るい窓辺で作業に没頭する職人の姿を目にすることも。観光地である前に、職人の町であることが伝わってきます。

工房の様子。やすりを使わずノミの跡を残しながら、繊細な美しさも宿すのが井波彫刻の特徴。クスノキが多く使われることから、工房には清涼な香りが漂う。写真提供:(公社)とやま観光推進機構

井波の木彫刻のルーツである瑞泉寺の創建は650年前。北陸浄土真宗の中心として栄えましたが、過去三度の大火に見舞われました。江戸時代、二度目の火災からの再建のため京都の東本願寺から御用彫刻師が派遣され、井波の大工に技術を伝えたことが井波彫刻の始まりです。以来、多くの職人たちが技を磨き、ダイナミックで華麗、かつ繊細な井波彫刻を作り上げてきました。弟子入り制度が今も根付く井波には彫刻を志す若手が全国から集まり、技術が継承されています。

瑞泉寺で現存する最古の建物の一つである山門。京都の彫刻師と井波大工の合作による精緻な彫刻を見ることができる。写真提供:南砺フォトライブラリー

ギャラリー空間に泊まる宿「Bed and Craft」

そんな井波の文化を五感で体験できるのが、「職人の手しごとに触れる」をコンセプトにした一棟貸しの宿「Bed and Craft」です。建築家の山川智嗣さん率いるコラレアルチザンジャパンが企画と運営を行い、2016年に1棟目がオープン。現在、7棟の宿が井波地区に点在しています。元料亭や豪商の屋敷といった建物を生かし、すべて山川さんの設計事務所がリノベーションを行っています。

職人の町・井波ならではの特徴が、それぞれの宿を地域の木彫刻家や漆芸家、作庭家などのギャラリーに見立て、設計時から一緒に作り上げていること。通常の設計では空間に合わせてアートやプロダクトを選びますが、ここではその逆で「作品に合わせた宿」を目指す。それぞれの宿は、作家の世界観を表現する空間でもあるのです。

左/宿「KIN-NAKA」の空間を彩るのは、木彫刻家の前川大地さんによるシャンデリア

右/陶芸家の前川わとさんの作品をベッドサイドの照明や器、浴室のタイルに迎えた宿「MITU」

左/漆芸家、田中早苗さんの器を目で楽しみ、漆の箸で食事ができる宿「taë」。朱の漆を使った和紙のインスタレーションが天井を彩る

右/宿「TenNE」のテーマ作家は、仏師の石原良定さん。室内では、美しい仏像を間近で鑑賞できる

コンセプトが生まれたきっかけは、2015年に井波に移住した山川さんが地域の彫刻師に出会い、「この作品を“体験”できる宿を作りたい」と強く感じたこと。ギャラリーに泊まることで、鑑賞するだけだったアートやプロダクトを身近に感じ、「自分の家にもあったら素敵だな」と暮らしに取り入れるイメージが生まれます。作品と気軽に出会える場を作ることでゆくゆくは購入につなげ、作家の活動を応援したいという思いが、Bed and Craftの背景にあります。

工芸品を使って、暮らすように泊まる「OUKA」

2026年に完成した宿「OUKA」のテーマ作家は、手工芸デザイナーの大治将典さん。全国の工芸品メーカーと協働し、器や生活道具、家具などのデザインを手掛けています。OUKAでは大治さんが北陸のメーカーと開発した器や道具を中心に、美しさと使いやすさを兼ね備えた工芸品を全館にしつらえました。注目すべきは、すべて実際に使えること。眺めるだけでなく実際に手に取り、使い、元の場所に戻す。その一連の体験が、本当の「用の美」を教えてくれます。

「OUKA」のダイニング。木彫刻家が表面に凹凸をつけた丸テーブルに、大治さんがデザインした真鍮のペンダントライトを組み合わせた

壁沿いに造り付けたカウンターの一部がキッチン。美しい料理道具や食器、カトラリーはすべて自由に使うことができる

例えばランプシェードから広がる温かな光が、夜のダイニングにどのような影を描くのか。真鍮のスプーンを持った時の心地よい重みや口に入れた時のなめらかさ。木製プレートに朝のパンを盛りつけた時の美しさ、カトラリーが当たった時の音。体験して初めて、物の美しさや作り手の思考が伝わるのだと、この場所では実感します。

生活の中で使う道具は、使う時間よりしまわれている時間の方が長いもの。OUKAのコンセプトに「美しく使い、美しく飾る宿」とあるように、置いてある時の佇まいも美しい物が選ばれていること、それらによって空間がより端正に感じられることに気づきます。

大治さんが手がけた美しい照明やスイッチプレート、器やカトラリーをしつらえた五感で楽しめる空間。気に入ったアイテムは、ほぼすべて購入可能

オープンな空間で桜並木と足湯を楽しむ

建物が立つのは井波の桜並木の名所、大門川から道を一本挟んだほとり。階段を上ると、大きな窓から川沿いの並木を一面に眺めるドラマチックな空間が広がっています。道からの視線を気にせず桜や緑を見下ろして楽しめるように、リビングとダイニングキッチンは2階に設計。リビングは畳に座椅子が置かれ、まるで広い縁側のよう。窓を開けて風を感じながら寝転ぶと、心も体もほころんでいきます。

桜並木を眺める畳のリビング。ベランダとの間を開け放せば、風が吹き抜けるオープンエア空間に

リビングの隣には、タイル床の中央に丸いバスタブを埋め込んだ部屋のようなバスルーム。ここでは窓の外を眺めながら足湯に浸かる、贅沢な時間を過ごせます。昼は空と緑を眺め、夜は壁にプロジェクターを投影して映画鑑賞。静かな夜は、いつもより時間を長く感じられます。

窓の外を眺めて足湯でリラックス。コードレスタイプのプロジェクターを完備し、壁をスクリーンに映画を楽しむのもおすすめ。別でシャワーブースもある

リビングとダイニングはおおらかなワンルームですが、リビングはダイニングより床を高くし、2段の階段でつないでいます。景色の見え方も過ごす気分も変わる一方、ダイニングチェアに座った人と、畳の座椅子に座った人の目線がちょうど合う設計。階段にベンチのように座っても気持ちがよく、好きな場所で好きな過ごし方ができる空間は、自宅のようにくつろげます。

ダイニングと寝室はカーペット、リビングは畳、バスルームはタイルと、素足で過ごしても気持ちがいい空間

オープンな雰囲気の2階とは一転、1階は落ち着いた雰囲気の和室。引き戸に桜の形の取っ手をあしらった、和のモダンな美しさを感じる空間です。上下階に寝室とバスルームがあるため、2組で滞在しても気兼ねなく過ごせるのも嬉しいところ。

左/1階の和室。右手が畳のベッドルームで、奥にバスルームと洗面が続く

右/引き戸の桜の形の取っ手は真鍮製

夕食付きプランのお店は、徒歩5分の燻製料理と創作イタリアンのレストラン「nomi」。富山の旬の食材を使ったコース料理を楽しめます。中でも、井波の彫刻師が削った木屑を生かした燻製料理は絶品。職人が多く使うヒノキやサクラなどで燻すことで、食材のうまみと風味を引き立てています。朝食は、地元食材を使ったボックスと町の人気ベーカリーのパンを宿までデリバリー。ゆっくり寝坊できるように、対面することなく配達コーナーに届けておいてくれる細やかな心遣いです。

左/レストラン「nomi」では、木屑を使った燻製料理などを木や陶器といった手仕事が見える器で提供。井波のクラフトビールや富山のウィスキーもそろう

右/部屋まで届けてくれる朝食ボックス。客室の食器に盛り付けて味わうのも楽しい

工芸を身近に感じる「職人への弟子入り体験」

Bed and Craftに泊まったらぜひ選んでほしいのが、井波ならではのオプションメニュー「職人への弟子入り体験」。木彫刻家、仏師、漆芸家、彫漆家、アロマブレンドデザイナーと多様な「親方」の工房にお邪魔して、少人数で教えてもらえる贅沢な内容です。

今回弟子入りしたのは、漆芸家の田中早苗さん。朱色の漆を練り上げ、好みの模様を箸に塗るまでを教えてもらいました。漆を練り上げる工程は意外なほど体力勝負。両手に体重をかけて1時間半ほど、本漆と顔料をひたすら練ります。一つの器の背景にある途方もない時間と理想の作品に高めるまでの技術を知ることで、工芸品の価値の理由を実感しました。

左/色のない本漆に朱色の顔料を混ぜて練り上げる作業。〈筆者撮影〉

右/描きたい模様に合わせて箸の木地にマスキングをし、漆を塗る

弟子入りの時間は3時間ほどですが、ほがらかな田中さんとあれこれ話しながら手を動かしていると、楽しくて時間があっという間。ギャラリーを訪ねるだけではなかなか聞けない話、例えば漆作家になった経緯や子育てとの両立、井波の仲間たちとの交流の様子などを聞けるのは、弟子入り体験の醍醐味です。敷居が高いイメージだった工芸の世界が身近に感じられ、そんな作り手たちが暮らす井波という町にも引き込まれていきます。

宿を出て、町歩きで知る井波

散歩をするのも楽しい井波の町。この10年ほどで、山川さんがリノベーションを手がけたベーカリーや焙煎コーヒーショップ、クラフトビール醸造所、アロマ蒸溜所などが次々にオープンし、若い観光客や移住者が増えています。町並みが変わることで「井波でお店を始めたい」という人が集まる連鎖反応が生まれ、この8年で空き家から生まれ変わった店舗は46軒。県内で唯一、空き家率が下がっているエリアなのだそう。

夜はぜひ、瑞泉寺の「井波彫刻ナイトミュージアム」へ(料金別・要予約)。井波の技が集結した彫刻の数々が美しく見えるよう夜間のみライトアップされ、さらにそれを井波彫刻師が解説してくれる貴重なツアーです。名匠が手がけた獅子の鋭い眼光、井波彫刻師が競作した彫刻の個性、立体的な彫刻が施された唐様(からさま)の迫力。200本以上のノミを使い分けながら、躍動的かつ繊細に仕上げる井波彫刻の技術の奥深さが伝わってきます。さらに彫刻師の視点の解説は「平面の図案を基に、職人が頭の中で3D化して彫っていく」「この彫刻は、厚み7センチの木の中で立体感を表現している」など、数百年前の職人が手がけた彫刻への想像と理解を深めてくれる内容。歴史の中で、職人から職人へと技術が受け継がれる重みを感じます。

左/本堂には名匠・二代目岩倉理八が手がけた獅子の木鼻が勇壮な姿を見せる

右/夜の山門。正面上の「雲水一疋龍」の彫刻は京都の御用彫刻師である前川三四郎の作で、京都から運ばれてきたと言われている〈以上2点・筆者撮影〉

江戸時代から続く、彫刻技術の誇りと文化。それらがOUKAや弟子入り体験で触れた現代の工芸へと、地続きにつながっていることが伝わってきます。井波の町で暮らすように過ごす旅は、過去から現在へ受け継がれるものづくりの素晴らしさに触れる体験でもありました。

施設概要

BedandCraft OUKA

住所 富山県南砺市山見 1124
最大宿泊人数 6名(1階寝室:キングサイズベッド1台 2階寝室:セミダブルベッド2台 2階リビング:布団2組)
アクセス 金沢駅からバスで約75分/新高岡駅から車で約40分/富山空港から車で約60分
駐車場 2台分無料
ウェブサイト https://bedandcraft.com
問い合わせ メール info@bedandcraft.com
電話 0763-77-4138(受付時間10時~21時)