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【あの人のインテリア #2】民藝店「やわい屋」店主・朝倉圭一さん 古民家を移築した飛騨高山の家

  • #古民家
  • #クラフト
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飛騨高山の静かな集落に立つ民藝店「やわい屋」。築160年を数える民家を移築した建物は、店主の朝倉圭一さんが家族と暮らす住まいを兼ねています。作家が手掛けた器やアート、国内外の古い家具が並ぶ室内は、古いものを生かしながら軽やかな空気が流れています。

地域とつながり、風景となる古民家を住まいに

民藝の器を中心に生活道具を扱う店舗「やわい屋」があるのは、岐阜県の飛騨高山。大正末期に始まった民藝運動の創設者である柳宗悦がたびたび収集に訪れた記録が残り、現在も多様な手仕事が息づく地域です。

観光客でにぎわう高山市街から車を走らせること30分。静かな里山の風景の中に、築160年の古民家を移築したやわい屋の建物が見えてきます。ガラス戸をからからと開けると、迎え入れてくれたのは店主の朝倉圭一さん。ここは住まいを兼ねた建物で、妻の佳子さん、長男の十一(とい)くん、猫のげんまいと一緒に暮らしています。

左/里山に囲まれて立つ「やわい屋」は2016年にオープン。店舗の入口がある南側には水田が広がり、季節ごと違う色に染まる

右/「やわい屋」店内。飛騨高山の柳窯や静岡で作陶する齋藤十郎さんの器、ガラス職人・安土草多さんのランプシェードなど、開業間もない頃から懇意にする作家の作品が並ぶ

高山で生まれ育った朝倉さんが民藝の店を始めようと決めたのは20代後半。以来、民藝や郷土史の本を読み漁り、休日には陶芸家やガラス作家など各地の作り手を夫婦で訪ねて回りました。彼らの多くは、工房と住まいを一体に活動しています。朝倉さんはその空気感に触れて生活と地続きで人の気配をまとう店にしたいと感じ、職住一体の暮らしを思い描くようになりました。

当初イメージしたのは、モルタルと古材を使ったモダンな店舗だったそう。けれどある夏の夕暮れ、住んでいたアパートから夕日に照らされる田園と山々を目にした時、見慣れたはずのその風景から「町の歴史と自然、自分たちの暮らしはすべてつながっている」と、突然実感したと振り返ります。その時、目の前の自然と交わらない自宅のフローリングを模した床やビニール壁紙に違和感を持つ一方、「使い込んだちゃぶ台と湯呑みだけは、外の風景と一体に感じられたんです。身近な道具を育てることで、地域や自然とのつながりを感じられる。住まいも自分たちの手で育てていく場所にしたいと思い、昔から続く古民家という選択肢が浮かびました」。

数十年後に、地域の美しい風景になる住まいを残したいという思いも大きな理由でした。「民家は本来、その土地から生えてくるようなものであるべきだと思います。気候風土に合った木が自然と生えて育っていくように」。

左/住宅部分の西側外観。庭で火を起こし、草木染め作家のワークショップを行ったことも。おおらかな切妻屋根の屋根裏は、蔵書を収めた私設図書館や納戸として使っている。正面の窓の奥は子ども部屋

右/長男の誕生後に増築した子ども部屋は日当たり抜群。絵本を入れた木箱は、親交のある松本の大久保ハウス木工舎にオーダーしたもの

古材を生かした家づくり

しかし当時は古民家の流通数が今よりも少なく、希望する土地ではなかなか良い物件が見つからなかったといいます。探し始めて2年がたったある時、懇意にする不動産業者に紹介されたのが解体済みの古民家でした。総ヒノキ材の重厚な柱梁、厚みのある床材は、古民家を熟知するベテラン棟梁も「これは見事な家だ」と感嘆するほど。江戸時代末期に建てられたと予想され、ほぼ改修を加えていないため新建材や断熱材が使われていないことも貴重でした。「当時は木材を丸太のまま使うことが普通だったのに、この家は柱も梁もきちんと角材に製材されていて、丁寧に手をかけたことが伝わってきました。すぐに移築したいと伝えて資金を用意し、土地探しを始めたんです」。

元の住居は飛騨の伝統的な民家の中でも一番小さな間取りで、デイと呼ばれる作業部屋が4つと台所、牛馬を飼っていた広い厩(うまや)がありました。当時の姿を再現することを基本に、厩だった場所を店舗に、作業部屋だった場所を住宅とギャラリーに。田の字型に区切られていた作業部屋の西側半分は間仕切りのないリビングダイニングとし、土間の台所とワンルームにつなぎました。一般的に古民家は天井が低く作られていますが、移築時に天井板を貼らず囲炉裏で燻された梁を見せて仕上げることで伸びやかな空間が生まれています。台所からリビングまで見通せるため家族がどこにいても気配が伝わり、光と風が気持ちよく通る住まいとなりました。

左/北側の台所からダイニングと奥のリビングまで見通せる間取り。梁の下に天井板を貼らずに天井の高さを確保した。冬は台所の薪ストーブの熱で住まい全体が暖かに

右/リビングで遊ぶ長男の十一(とい)くんと猫のげんまい。ソファベッドはハンス・J・ウェグナーがデザインしたヴィンテージ品。左の押入れだった場所は上段をレコードスペース、下段をテレビ置き場に

できるだけ地域の古材を使うことを大切にし、解体する家や学校があると聞けば自ら足を運んで譲ってもらいました。例えば店舗の屋根裏に設けた私設図書館の本棚は、閉校になった小学校の階段の板で作ったもの。厚みがあり、角が取れて丸みがあるのが持ち味です。リビングダイニングの床板はいくつかの古民家から集めたもので、どれもおそらく100年以上前のものだそう。一枚一枚微妙に厚みが違いますが、あえて凹凸や歪みを生かして貼っています。長年使い込まれた表面は滑らかで心地よく、ミックスされた色合いも味わいに。

一方で台所の天井はちょうどいい古材が見つからず、新品のパネル材を使っています。「古材は譲ってもらうとタダですが、買うと高い(笑)。全部を古材で揃えたいというこだわりはなかったので、大工と相談して材料を選びました。古材が見つかったら貼り替えようと思っていましたが、愛着が湧いているからこのままでいいかな」。古さを大切にしながらもこだわりすぎないことで、軽やかな空気感を紡いでいます。

左/店舗の屋根裏スペースを私設図書館に。地域の小学校が解体される際に木製の重厚な階段を譲り受け、大工に頼んで本棚に生まれ変わらせた

右/古材の柱梁に新しいパネル材の天井がなじんだ台所。薪ストーブは料理もできる。壁の銅板は換気扇を目隠しするカバーで、オリジナルで製作したもの。回転する切り株型スツールは友人の木工作家、西村健児さんの作品

自然素材や手仕事の温もりと日常が響き合う

経年変化した柱梁や床材、漆喰壁で構成した空間を彩るのは、手仕事による陶器やランプシェード、アート、国内外の古い家具。鮮やかな色を使っているわけではないのに楽しさを感じるのは、古材やガラス、布、陶、金属といった多様な素材を組み合わせているからなのでしょう。

中でも台所は、鉄製の薪ストーブや銅製の換気扇カバー、カゴや鉄製フライパンなど、多様な素材が目を楽しませてくれます。キッチンは佳子さんのリクエストで引き出しや扉付き収納は作らず、よく使う道具や食器はオープン棚や壁面にラフに収納。一目で探せる便利さはもちろん、豊かな色や素材がインテリアの一部になっています。「プラスチックの質感が好きじゃなくて」と収納はカゴや木箱を活用するといったように、経年変化する素材が多いことも全体の調和と味わいにつながっています。

左/リビングの窓辺のスペースは、家具を置いて小さなサンルームに。家具は妻の佳子さんがネットで選んだもの。オークションサイトもよくのぞくのだそう。壁に飾った写真は富山の手工芸店・林ショップで購入

右/料理道具や器を一覧できる風通しの良い台所。使用頻度が低いものはリンゴ箱やカゴに入れて棚の下段に収納。天板のタイルは日本製のヴィンテージ

一方でリビングの棚には長男が好きなキャラクターのおもちゃが並び、テレビではアニメが流れるといったように、雑多な生活感が溶け合っているところも印象的です。

「家はこうじゃなきゃいけない、というこだわりはあまりないですね。空間を素敵だと感じる理由は、住む人の暮らし方と建物の組み合わせが良いからだと思うんです。うちは古民家だけど昔を真似るだけでは暮らしにくいし、家の持ち味を生かしながら、何を足して何を引けばいいかをいつも考えます。僕の中ではその土地らしさをより強く感じられる住まいにすること、家族3人から生まれるグルーヴ感を受け入れて、みんなが心地よく暮らせることが大切ですね」

リビングの壁面には古い足場板を活用して棚を製作。家族が思い思いの物を飾るにぎやかなスペースだ。「なんとなく上3段が僕と妻、手が届きやすい下2段が息子のスペースになっています」と朝倉さん

朝倉さんの住まいから学ぶ、古いものと暮らすポイント

古民家に住むというと敷居が高く感じますが、朝倉さんの住まいには、ほどよく力が抜けた優しい空気が満ちています。古いものを大切にしながら、子どもも大人も楽しく暮らせるようにこだわりすぎないこと。その中で大切にしているポイントを聞きました。

古い物と暮らす@時代や国籍を自由にミックスする

左/古い裁ち台の脚を付け替えたダイニングテーブルにさまざまなデザインの椅子を合わせている

右/押入のレコードスペースには、レコードに並んで朝倉さんがコツコツと集めている映画のレーザーディスクも。盤のサイズに合わせて棚を製作した

古民家というと、重厚な民藝家具や和箪笥が並んでいる空間をイメージするかもしれません。けれど僕らは現代に暮らして色々なものを見ているから、時代や国籍にこだわらず好きなもの、使いやすいものを選んでいます。例えばダイニングには地元の飛騨産業の椅子、アメリカのウィンザーチェア、メキシコの民藝品のエキパルチェアを組み合わせました。唯一、基準にしているのは「何を足せば、この家の味わいがもっと生きるか」という視点ですね。妻と相談して決めるから、好みが混ざるのも面白いです。

古い物と暮らすAストーリーごと受け継ぐ

左/子ども部屋の机は地域の人に譲ってもらったもの。壁には、染色家の岡村吉右衛門による12カ月をテーマにした版画の中から長男の名前である「十一」を飾った

右/店舗スペース。屋根裏に上がる階段は解体中の古民家から譲ってもらったもの

この家には地域で出た古材はもちろん、縁あって譲ってもらった物がたくさんあります。店舗の屋根裏に上がる階段は、解体中の民家から譲ってもらいました。家主のおばあさんが「自慢だった階段をもらってくれて嬉しい」と喜んでくれたことをよく覚えています。店から住居につながる入り口には、親戚から譲り受けた蔵戸を使っています。他にも子どもの机や本など、誰かから受け継いだものは数え切れません。今は受け継ぐという行為自体が少なくなっていますが唯一無二の物だし、訪れた人にエピソードを話すたびに愛着が増していくように感じます。

古い物と暮らすB環境や歴史を生かす

子ども部屋には庭越しに里山が見える大きなFIX窓を作り、左右に風を通すための縦長の窓を設計。増築したスペースだが壁には古材を使い、住まいの空気になじませている

住居やライフスタイルの選択肢はたくさんありますが、その土地らしさを感じられる住まいにすることが大切だと僕は思います。気候風土に合わせたしつらえもそうですし、かつてこの地域で生きた人の思いを引き継ぐこともそう。僕は飛騨に暮らすからこの住まい、この暮らしを選んでいるわけで、例えば海辺の街に暮らすことになったら全然違う家にすると思いますね。民俗学や郷土史を学んでいるから「この環境や歴史をどう受け入れ、応えるか」を大切にしたいんです。

地域に根差し、古いものの味わいを楽しむ暮らし。あらゆる情報が手に入る時代だからこそ、あえて足元にある地域をよく知ること、歴史を知ることが、心地よい住まいづくりのヒントになるのかもしれません。

ショップ情報

やわい屋

住所 岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
電話 0577-77-9574
営業時間 13:00∼17:00 ※営業日は インスタグラムで確認を

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