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都会の住宅密集地で“ニワ”を持つ
半屋外空間が広げる家と暮らし

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引網邸が建っているのは、住宅がひしめき合う東京都内の住宅地。南側と西側に隣家が迫る敷地で、住まいに光と開放感をもたらしているのは、隣接する生活歩道と家の間に設けた半屋外空間。ソトでありながら家の中の延長のようでもある空間で、気軽に使えるソトがある暮らしを楽しんでいます。

“屋根付きのニワ”で、遊び、集い、くつろぐ

40代の引網善久さんと史恵さんは、娘の希心ちゃんとの三人暮らし。治療家である善久さんはいくつかの治療院を経営しており、史恵さんもそこで治療家として働いています。引網さんご家族が家を建てたのは、ご夫婦の地元でもある東京都足立区の住宅地。敷地は、南側と西側に隣家が迫り、北側に車道、東側には近隣住民が通行する生活歩道がある角地でした。生活歩道に面した東側はガレージと駐輪場、そしてテラスが連なる屋根付きの屋外空間になっています。

「この半屋外空間のことは、“ニワ”と呼んでいます。LDK横の“ニワ”に置いたアウトドアチェアに座って、コーヒーを飲みながら本を読んだり、ガレージ部分で子どもがプール遊びをしたり、キャスターボードをしたりして過ごしています。友達を招いた時はここでご飯を食べたり、BBQをすることも。職場のスタッフを呼んでホームパーティーをする時は20人ぐらい集まるのですが、玄関のほかにLDKの掃き出し窓からも“ニワ”に出入りができるので、家の中と外とを一緒に使って楽しんでいます」(善久さん)

建物の東側に設けた半屋外空間。生活歩道との間に衝立のような壁を立てて、オープンすぎない空間にしている

半屋外空間の屋根には透光性のあるポリカーボネート波板を用い、明るく雨の日も使える場所に

半屋外空間は1階LDKの掃き出し窓から気軽に出入りできる。大きな窓で視線もつながり、家の中の家族とコミュニケーションも取りやすい

コストダウンの策から生まれた半屋外空間

この“ニワ”が生まれたのは、実はコストダウンのため。引網邸は新防火区域に建っており、敷地いっぱいに家を建てようとすると、防火サッシを使う必要がありました。高騰する防火サッシの使用を減らすために行き着いたのが、生活歩道側の外壁を防火規制のかからないラインまで引っ込めるプラン。そうして生まれた空間に衝立のような壁と屋根をつくり、雨の日も使える半屋外空間ができました。

1階にあるLDKは東側の半屋外空間に対して大きな窓が設けられ、建物南側につくったトップライトの効果もあり、やさしい明るさで満たされています。設計士から現在のプランを提案された時、「明るくていいと思った」という引網さんご夫婦ですが、生活歩道を行き来する人の目が気になっていたそう。「それまでマンションの6階に暮らしていたこともあって、自宅でくつろいでいる時にすぐそばを人が行き来するのはどうなんだろうって。でも実際に家が建って、自分たちも生活歩道を歩いて家を見てみたら、思っていたよりも中が見えなかったんです。人通りもそんなに多くないし、覗き込んでくるような人もいないので、今では全然気にせずに“ニワ”で過ごすようになりました」と善久さん。“ニワ”はすっかり引網さん家族の生活の一部になっているようです。

防火制限のかからない位置までセットバックした建物の東面は凸凹しており、これは半屋外空間を単調な場所にしないための工夫

サーフィンが趣味でプロサーファーのトレーナーもしている善久さんは「サーフボードロッカーとシャワーは本当につくって良かった」と話す

東側の半屋外空間越しの光と南側につくったトップライトの光が入るLDK。窓がほとんど見えない外観からは想像できない明るさ

グリーンが外観と日常に彩りを添える

“ニワ”には、生活歩道から家の中を見えにくくする効果も狙って、植栽を植えました。「植物を育てるのはもともと好きでした。マンション暮らしをしていた時と違って、外で気兼ねなくできるのがいいですね。水場も外につくってもらったので、水やりや土いじりがしやすいです」と善久さん。

植栽は、ノムラモミジやアオハダなどの落葉樹、ラベンダーやウンナンオウバイなど花を咲かせる草木、常緑のマサキやウエストリンギアなど。一年を通して季節を感じられる植物がセレクトされています。「設計士に紹介してもらった植栽屋にお任せしました。家を建ててすぐの、まだ植栽を入れていなかった頃は工場のような外観だったんですが(笑)、植栽を入れたことで命が吹き込まれたというか、家らしくなりました」(善久さん)。夜にはLDKからライトアップされた植栽が見え、その眺めもお気に入りだと引網さんご夫婦は話します。

「花が咲いたり紅葉したりする植物を通じて、季節を感じられるのがいい」と史恵さん。植栽が通りからの視線をほどよく遮る

植栽は地植え以外にプランターも置き、半屋外空間の木の梁を利用して張ったワイヤーにツル性の植物を這わせている

家事効率の良い間取りですっきりと暮らす

間取りは、1階が玄関とLDKのほか、治療室としても使える小部屋という構成。2階には子ども部屋と寝室、ガス乾燥機を備えた洗面脱衣室と物干しスペースがあり、衣類の洗濯と片付けが同じフロアで完了する動線になっています。「収納はたくさんありすぎてもその分物を詰め込んでしまうので、つくれるだけの量にしてもらい、それに合わせて暮らそうと思っていました」と史恵さん。収納は寝室と階段下で容量を確保して、リビングやキッチンにつくったオープン棚にはお気に入りのアイテムを飾って楽しんでいます。

マイホームの検討中の段階から、図書館に通って住宅雑誌を読んだりインスタグラムを見るなどして、家のインテリアの雰囲気や動線の工夫について勉強していたという史恵さん。家づくり中はさまざまなメーカーのショールームに足を運び、実物を見ながらキッチンなどの設備機器を決めていったそうです。

「1階のLDKは防火サッシを入れることになってもいいから、もう少し広くしたいと思ったこともありました。でも、やっぱりコストが高くなってしまうということで、1階の天井を高くして、広く感じられる空間にしてもらいました」(史恵さん)

2階の寝室と子ども部屋の間にあるスタディスペース。現在は本棚とソファを置いて、家族のライブラリースペースとして活用

対面型のステンレスキッチンは史恵さんが選んだ。小物が飾れる棚が付いたカップボードも史恵さんのリクエストで造作

天井際まである窓やガラス壁が2.8mある天井高さを強調。治療室とLDKをつなぐ廊下には、階段下スペースを利用して収納をつくった

ソトを家の一部として使うことで得た豊かさ

「家を設計してくれたI.R.A.の綱川さんには、“土地が狭くて住宅が密集している都会では、1階リビングの家は贅沢なことですよ”と言われました」と善久さん。都会の住宅密集地では、3階建てで2階がリビングという家も少なくありません。そうしたロケーションにありながら、気兼ねなく使える“ニワ”に開いた1階リビングがある引網邸には、のんびりとしたゆとりを感じます。

「この生活歩道がアスファルトではなく、レンガ色のタイル舗装というのも良かったです。家の外観はグレーで地味ですが、歩道とセットで見るとそれも映えてくる。“この歩道までが我が家”の気持ちで暮らしています。住み始めてから“ここをこうすれば良かった”という話はよく聞きますが、僕たちは住み始めてから“ここがいいな”、“ここをこうして良かったな”と思うことばかり。住むほどに楽しさを感じています」(善久さん)

大きな窓から半屋外空間越しに視線が抜けていくLDKは、「21畳という実際の面積以上の開放感を感じられます」と史恵さん

外壁は史恵さんの希望でライトグレーに。半屋外空間を囲う壁も家の外壁と同じ仕上げにして、一体感を出している

衝立のような壁が家の中を絶妙に目隠し。半屋外空間に面した生活歩道は車が入ってこないので希心ちゃんが遊ぶ際も安心

DATA

設計 I.R.A./国際ローヤル建築設計 一級建築士事務所
敷地面積 102.53u
建築面積 82.97u(1階49.52u+屋外空間33.45u)
延床面積 1階49.52u、2階44.69u、合計94.21u
主要構造 木造
用途地域 準防火地域(新防火区域)
設計期間 7ヶ月
工事期間 7ヶ月
竣工 2020年6月

設計者から一言

歩道側に屋外空間を提案したのは、コスト的な要因もありますが、近所にある公園も理由のひとつでした。希心ちゃんがこの公園を好み、よく通っているのを聞いて、公園へ行くための希心ちゃんの玄関を作ってあげたいと思いました。そこからさまざまな案が生まれ、“ニワ”が出来ました。ご家族の生活の一部として頂きうれしいです。

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