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東京の高架下を歩く。人が立ち止まり、集まる場所へ

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かつては無機質で、人々がただ通り過ぎるだけの暗い場所だった高架下。それがいま、優れたデザインによって人々が自然と立ち止まり、集う場所へと変わりつつあります。高架下だからこそ生まれる、半屋外の独特の心地よさ。2026年6月にグランドオープンしたばかりの「西荻高架下」を訪ね、開発を担当した株式会社ジェイアール東日本都市開発の大久保 高さんに、その舞台裏を伺いました。

「場所貸し」から「まちづくり企業」へ

JR中央線・西荻窪駅の南口。この駅から吉祥寺方面へ歩いて5分ほどのところに、「西荻高架下」が誕生した

JR中央線・西荻窪駅の改札を出て、吉祥寺方面へ線路沿いを5分ほど。頭上を走る電車の音に誘われるように歩いていくと、高架下とは思えない光景が現れます。およそ200mの緑の植わった小道、ぽつぽつと置かれたベンチ、2階のデッキを行き交う人たち。2026年6月27日にグランドオープンした「西荻高架下」です。手がけたのは、鉄道高架下の不動産を扱うジェイアール東日本都市開発。もっとも、同社が最初からこうした場づくりを得意としていたわけではありません。

高架のコンクリートの下に、木のルーバーや植栽をあしらった保育園。かつて「通り過ぎるだけ」だった線路沿いが、表情豊かな街並みに変わった

開発を担当した大久保さんによれば、長いあいだ同社の仕事は、高架下の空間をテナントに貸す「場所貸し」——つまり不動産賃貸業だったといいます。転機は、いまから15年ほど前。秋葉原~御徒町間の高架下に誕生した「2k540 AKI-OKA ARTISAN」が、「薄暗い高架下」のイメージを一新してみせたことでした。場所を貸すのではなく、場所の価値そのものをつくる。この成功体験が、事業の方向性を変えていきます。以来、同社は自らを「まちづくり企業」と捉え直し、投資回収だけでは測れない「暮らしづくり」への投資を重ねてきました。大久保さん自身、そんな転換期に入社した一人です。「私も、ちょうど『そういうことがやりたい』と言って入社した口なので。あれから15年経ったんだね、なんて話をしていたところです」。

小学校の安全マップに「危険」。暗がりから始まった計画

かつて夜は真っ暗だった高架下に、スーパーの灯りと植栽の緑。子どもたちが安心して通れる、明るい街の顔になった

西荻窪の計画が始動したのは、いまから7年ほど前。きっかけは、「建物の寿命」でした。この場所にはもともと、運送会社や事務所、整備工場などが入居し、広い空間は効率よく使われていたものの、用事があるのは特定の人だけ。日が落ちれば、あたりは真っ暗になりました。地元の小学校がつくる安全マップに「高架下は暗くて危険なので近づかないこと」と書かれていたこともあったそう。「どうせやり替えなければいけないのであれば、ちゃんと街に開かれた場所にしよう。それが最初の種でした」では、「街に開かれた場所」とはどんな場所か。それを探るために、大久保さんたちは何度も西荻窪の街を歩きました。そこで見えてきたのは、この街ならではの個性。駅の周りには実力のある個人店が集まり、独特のカルチャーの気配がある。大規模な再開発がされてこなかったからこそ、小さなお店の集積がそのまま街の魅力になっている——。

犬の散歩のついでに、日用品の買い物に。派手さより、毎日の暮らしになじむこと——「日々西荻生活」の思想が、何気ない風景ににじむ

「そういう思想を持ってこの街を好きになった人たちに、この場所を使ってもらいたいよね、というのが根底にありました」。目指すべきは、遠くから人を呼ぶだけの商業施設ではなく、地元の人の毎日に溶け込む場所。こうして固まっていったコンセプトが「よりそう高架下 日々西荻生活」でした。プロジェクトの初期の段階でこの軸が定まったことで、設計会社もテナントも開発側も、迷ったときに立ち返る場所ができたと大久保さんは振り返ります。テナントの顔ぶれも、奇をてらわず、コンセプトに共感してくれた生活密着型のお店を中心に選ばれていきました。

敷地の25%を、みんなの「道」に

植栽とベンチが点在する、ゆったりとした歩行空間。木陰のパーゴラの下を園児たちが列をなして散歩。地域の日常が、この緑道を舞台に静かに動きはじめている

西荻高架下を歩いてまず驚くのは、店舗の前に広がる歩道のゆとりです。じつはここは、もともと歩行者のための場所ではありませんでした。高架沿いの道は狭いうえに車の抜け道になっていて、車が一台通るたびに歩行者が身をかわさなければならない。そんな光景が日常だったといいます。そこで開発チームが出した答えは、発想の転換でした。危ない道を直すのではなく、自分たちの敷地の側に、安全に歩ける道をつくってしまう。それも、ただの通路ではありません。植栽を入れ、ベンチを置き、幅は概ね3~5メートルを確保。こうした「道」に割いた面積は、敷地の約25%にものぼります。

収益を生む床を削ってでも、道に振り切る。その判断を支えていたのは「最終的にお店を使わなかったとしても、この道にちょっと触れてもらうだけでもいいや、という精神です。広くなきゃ誰も歩かないですから」。もともと目の前の路肩を自由に歩いていた環境から、高架下を歩いてもらう。人の動線を変えてもらうには、相当な時間がかかる。だからこそ、歩く環境そのものを徹底的に整えることにこだわりました。「車椅子やベビーカーの方がどこからでも入れる動線も、必ず意識しました。これから少しずつ市民権を得て、皆さんの『道』になってもらえたらいいなと思っています」。開業から1カ月足らず。この小道はすでに、犬の散歩やベビーカーの行き交う風景を街に返し始めています。

座りたくなる大階段と、どこからでも歩ける2階デッキ

段ごとに緑を配した、居場所のような大階段。ただ上り下りするだけでなく、腰かけて過ごしたくなる

もうひとつのシンボルが、施設の中ほどにある大階段です。この階段が生まれた経緯は少し変わっています。広場をどこかに設けたい。けれど敷地の制約でどうしても場所が取れない。最終的に、計画されていた駐輪場の上を2層式の広場にする、というアクロバティックな解決策にたどり着きました。すると今度は、2階へ人を導く階段が必要になります。「細長い、登るためだけの階段にしてしまうと、絶対登ってくれないことは経験からわかっていました。だからちゃんと広く取って、『歩いて上がってみようか』と思わせるぐらいの階段にして。人がだんだんに座っている景色を作りたかったんです」。機能のための階段から、居場所としての階段へ。その狙いは的中し、いまでは夕方になると、学生たちが階段に腰掛けて思い思いの時間を過ごしています。

2階へと続く階段の踊り場にも、緑とベンチ。上り下りの途中でも、ふと足を止めて過ごせるようにしつらえられている

さらに、3棟に分かれた建物の2階はすべてデッキでつながっていて、隣接する駅側の駐輪場からも行き来が自由。ほぼ24時間開放されたフリースペースです。興味深いのは、この「つながり」が人の行動を目に見えて変えたことでした。「じつは『西荻高架下』の第1期、2期とできた段階では、なかなか2階には上がってもらえなかったんです。でも今年、全部がつながったことで、皆さん2階もすごく歩いてくれるようになった。どこから来ても東西に行き来ができる。うれしかったですね」。動線が端から端まで通ったことで、施設全体がひとつの「回遊できる散歩道」になったのです。

マルシェと産学連携。「作って終わり」にしない

広場で行われた「ガーランドかざりつけ」の手づくりワークショップ。小さな子どもたちの姿もあり、地域の人が「関わって、つくる」場が育っている。写真=潟Wェイアール東日本都市開発

ハードが完成しても、それだけで場所が育つわけではありません。西荻高架下では、全体開業前からタウンマネジメントの取り組みが続けられてきました。緑道と広場を会場に、地域のお店を中心に出店する「西荻高架下マルシェ」は、2025年から回を重ねて恒例行事になりつつあります。「こういう場所を作ったら『皆さんが活用してくれるでしょう』と、作りっぱなしにしてしまうことがほとんどだったんです。でも、待っているだけだと全然進んでいかない」

高架下の余白に、緑のサークル型の人工芝とベンチを配した休憩スペース。時にはイベント会場にもなる。無機質だった構造体の下が、思わず一息つきたくなる居場所に

だからこそ、小さなことから手探りでも、運営側が仕掛け続ける。その姿勢は、東京女子大学のまちづくりゼミとの産学連携にも表れています。今年で3年目になるこの取り組みでは、学生たちが「世代間の交流が少ないのでは」「若い人が意外と来ていないのでは」といった西荻窪の潜在的な課題を掘り起こし、高架下をフィールドに検証を重ねてきました。昨年12月には、学生たちが自らマルシェを企画・開催するまでに。「学生さんたちがテントを組んで、ブースを作って、出店を集めてきて、自分たちも出店して。広場で実施した取り組みも盛況で。ああいうことを自分たちの手でやれた、というのが良かったなと思います」

「気づいたらできてた」がちょうどいい

高架の柱の間から眺める2階の「Kona's Coffee」。無骨な構造体とサーフボードなど、店ごとの個性が溶け合う

あらためて建物を眺めると、その佇まいはとても穏やかです。落ち着いた色調の外装は、新しい商業施設にありがちな華やかさとは無縁。けれどそれは、予算の都合でも、遠慮でもありません。住宅地のただなかに建つこの場所で、街に「どう溶け込み、染み込むか」を突き詰めた結果です。「住宅地の中であんまり突飛なことをやるよりも、『なんか気づいたらできてるね』ぐらいの感覚でいいのかなと。新築感がない方がいい。『前からあったよね』みたいな佇まいを目指しました」。溶け込むための配慮は、目に見えるデザインだけにとどまりません。周囲への音等の影響を考えて、深夜まで営業する業態には最初から「ごめんなさい」をして、スーパーやベーカリー、ドラッグストアなど生活密着型の店舗で構成。ほぼ24時間開放という、商業施設としては思い切った管理にもかかわらず、開業以来大きなトラブルは一度もないそうです。

店舗を前面に押し出さず、通路沿いに植栽と「たまり」を配した2階デッキ。視線が抜け、人が留まる——設計の企みが、静かな佇まいの内側に息づく

このブレのなさを支えたのが、構想の段階から基本設計を担ってきたフレームデザインでした。「代表の北川さんには『最初に「日々西荻生活」を決め切って、それをずっと押し通したから、うまくいった』と言っていただきました。途中で『この辺は派手にしちゃおうぜ』とやっていたら、崩れてしまっていたと思います」。じつは取材当日、現地で偶然お会いした北川さんにも、少しだけ設計の意図を伺うことができました。印象的だったのは、店舗を主役にしない、という考え方です。「街路からの突き当たりに、本当は目立つようにお店を出したいところを、あえて大きな階段を作る。中央線って、じつは軸線が少し斜めにずれているんですよ。それを意識して、視線の抜けをずっと作っていく。店舗を全面に出すのではなく、あえて『たまり』になる場所を作ってあげる」(北川さん)。商業のロジックより先に、歩く人の目線がある。派手さのない外観の内側には、そんな設計の意図が表れています。

2階外壁に使われているのは、ケイミューの「新フラット16」。石目調やレンガ調といった模様を持たないフラットな外壁材が、目地のラインだけを残して街の空気にそっと溶け込む

高架下には、まだ余白がある

6月開催のマルシェ当日の高架下。2階のデッキにも1階の緑道にも人があふれ、普段は静かな通りが街の広場に変わる。写真=潟Wェイアール東日本都市開発

グランドオープンから約1カ月。休日には吉祥寺並みの人出になることもあるそうですが、大久保さんの視線は、施設の売上のさらに先にあります。フィールドワークで見えてきたのは、西荻窪の人たちの行動範囲が、意外と狭いという事実でした。駅の北側の人は北のスーパーへ、南側の人は南の店へ。自転車なら10分程度でどこへでも行ける街なのに、それぞれが自分の生活圏の中で完結している。魅力的な場所が点在しているのに、良くも悪くも混ざり合っていないのです。「そこがもっとお互いに混ざってくると、盛り上がる。『住みたい街ランキングで1位になる』とかではなくて、自分たちの街をもっと好きになる。その刺激になるといいなと思っています」

木陰のパーゴラの下に、白いテントの出店がずらり。買い物のついでに立ち寄って、ベンチでひと休み。マルシェが日常の風景に溶け込んでいる。写真=潟Wェイアール東日本都市開発

南北の動線をつなぎ、東西の回遊を生んだこの高架下は、その「混ざり合い」の装置にもなる。そして同じ眼差しは、中央線の沿線全体にも向けられています。中野から西荻窪の高架下は耐震補強や長年の利用の経緯から、これまでなかなか手がつけられてこなかったエリア。裏を返せば、まだまだ余白があるということ。現在は高円寺などでも新たな取り組みが始まっているそうです。最後に、この高架下でいちばん好きな景色を大久保さんに尋ねてみました。返ってきたのは、開発者というより、一人の散歩好きのような答えでした。「上から俯瞰したときに、一直線に通路があって、緑があって、人が歩いている——その感じが好きですね。いちばんは、向こうの端に夕日が落ちる時間です。最高ですよ」

これまで高架下は、ただ「電車に乗るために通り過ぎるだけの場所」、あるいは「ちょっと暗くて通りづらい場所」だと思われてきたかもしれません。でも、建築のアイデアと、「街に寄り添いたい」という人の想いがあれば、こんなに豊かな「街の空間」に生まれ変わります。次のお休みは、頭上を走り抜ける電車の気配を感じながら、新しく生まれ変わる高架下を歩いてみませんか。

施設情報

西荻高架下(にしおぎこうかした)

所在地 東京都杉並区松庵3-41-1(JR中央線 西荻窪駅より吉祥寺方面へ徒歩約5分)
URL https://www.jrtk.jp/nishiogi-koukashita/

+4選:東京の魅力的な高架下

東京には他にも空間の工夫が光る高架下建築が点在しています。いずれも駅からすぐ、電車を降りてそのまま散歩が始められるのが高架下のいいところ。週末のお出かけ先に、4つのスポットをご紹介します。

潮見高架下(JR京葉線:潮見駅)

殺風景だった場所が、寄り道したくなる広場に

東京駅から京葉線でわずか約8分。倉庫や物流施設のイメージが強かったベイエリアの駅・潮見の高架下に、2026年4月3日——「潮(4)見(3)の日」——、飲食やサービスの店舗が集まる新しい拠点が誕生しました。注目したいのは、駅前でありながら「広場」として計画された余白の使い方。街の「裏側」だった高架下が、ベビーカーを停めてひと休みできる「表舞台」へと変わっています。全体の約6割の既存建物を再利用しつつ、新しく新棟を加えることでサスティナブルな施設となっている。こちらも西荻高架下同様、フレームデザイン株式会社が基本設計・実施設計工事監理監修。

アクセス

所在地 東京都江東区潮見2-7(JR京葉線 潮見駅高架下)
アクセス 潮見駅からすぐ。東京駅から京葉線で約8分

SKAC(JR常磐線:亀有駅)

下町の路地に突如現れる、秘密基地のようなアート空間

『こち亀』でおなじみの下町・亀有。駅の北口から住宅街を10分ほど歩くと、高架下に忽然と現れるのが芸術文化センター「SKAC(スカック/SKWAT KAMEARI ART CENTRE)」です。中に入れば、無骨なコンクリートの高架構造が剥き出しのまま。建設現場のような単管足場が数十メートルの本棚となり、天井高いっぱいに海外のアートブックが積み上がります。下町の日常に洗練が混ざり合う——「未完の美学」を体現した空間です。

アクセス

所在地 東京都葛飾区西亀有3-26-4(高架下施設「ぽちかめ」内)
アクセス JR常磐線 亀有駅北口から徒歩約10分
営業時間 11:00~19:00、月・火曜定休

※お出かけ前に最新情報をご確認ください

東京ミズマチ(東武スカイツリーライン:浅草~とうきょうスカイツリー駅間)

公園を歩いていたら、いつの間にか高架下にいた

浅草駅から、隅田川に架かる歩道橋「すみだリバーウォーク」を渡って対岸へ。隅田公園の緑と北十間川の水辺に挟まれた高架下に、カフェや雑貨店、ホステルが連なります。頭上を電車が走っているのに、テラス席が驚くほど心地よいのは、高架橋と建物を構造的に切り離す「縁切り」の工夫のおかげ。川風に吹かれながら、遠くに電車の気配だけを感じる時間が味わえます。

アクセス

所在地 東京都墨田区向島1-2ほか
アクセス 東武スカイツリーライン とうきょうスカイツリー駅から徒歩約3分、浅草駅からすみだリバーウォーク経由で徒歩約5~7分
URL https://www.tokyo-mizumachi.jp/

日比谷OKUROJI(JR山手線ほか:有楽町~新橋駅間)

100年前の煉瓦に囲まれて、ちょっと贅沢な大人の隠れ家

有楽町駅と新橋駅のちょうど中間、線路の「奥」にひっそりと延びる全長約300mの通路——その名も「日比谷OKUROJI(オクロジ)」。舞台は明治生まれの連続アーチ煉瓦高架橋です。味わいたいのは、なんといっても光の演出。足元から柔らかく煉瓦壁を照らすライティングが、アーチの陰影を浮かび上がらせ、路地の奥へと誘います。

アクセス

所在地 東京都千代田区内幸町1-7-1
アクセス JR有楽町駅・新橋駅から各徒歩約6分
URL https://www.jrtk.jp/hibiya-okuroji/