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【設計者の自邸を訪ねる #3】間口4mの空間を木々のスクリーンがダイナミックに彩る。遊び心が光るギャラリーのような住まい。

  • #建築
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敷地条件を読み解き、一見デメリットに見える個性も建物の魅力に変える建築のプロフェッショナル。今回訪ねたのは、間口約4mの狭小地ながら公園に面したロケーションを生かし、外からは想像もできない伸びやかな空間を叶えた建築家、河合政也さんの住まいです。大開口からの眺めを楽しむ空間には構造や素材の豊かな知識と経験、そして実験的な遊び心が生きていました。

「家は小さい方がいい」。間口4mの敷地で実現した開放的な空間

車がにぎやかに行き交う大阪メトロの駅前。大通りから一本入ると、住宅が立ち並ぶ閑静なエリアが広がっています。車1台がゆったり収まる間口4mほどの敷地に立つのが、建築家の河合 政也さんの住まいです。

左/道路に面した南側外観。間口約4mの敷地を最大限に活用し、上方向にボリュームを持たせた3階建て

右/1階は構造の工夫で柱のないガレージに。子どもが自転車や荷物をこすっても傷が目立ちにくいよう、壁にはSOLIDOの「typeF facade(セメント01)」を使用

コンパクトな玄関から階段を上ると一変、目の前に広がるのは、大きな窓から木々を見晴らすおおらかな吹き抜けのリビング。天井の小屋組みが、アートのような存在感を放っています。道路側からは想像もできないダイナミックな風景を生み出すのは、敷地の北側に広がる公園の木々。「左がケヤキ、右がクスノキ。季節によって、スクリーンのように景色が変わるんです」と河合さん。春の新緑、秋は黄色から赤へとグラデーションを描く紅葉。冬は葉が落ちて太陽の光が温かく降り注ぎます。木々の色と鳥の声に包まれるこの住まいで、河合さん夫妻は3人の子どもたちとにぎやかに暮らしています。

2階に広がるワンルームの開放的なLDK。奥のリビングの吹き抜けから光が注ぎ、一面の緑が白い壁をうっすらとグリーンに染める

自宅の新築のため、周辺で土地を探していた河合さん。駅まで歩いて3分とアクセス抜群な上、公園に面する恵まれたロケーションの敷地に出会い「ほぼ即決で決めました」と振り返ります。けれど間口が約4m、奥行きが約12mと細長い狭小地。5人家族の住まいには難題だったのでは?そう尋ねると、意外な答えが返ってきました。
「僕は、家は小さい方がいいと思っているんです。大学院時代も狭小住宅をテーマに研究をしていました。面積が小さい分、家族の距離も近づくでしょう?コンパクトで快適な家が好きだから、敷地が小さなことは気にならなかったですね」

そして完成した3階建ての住まいの中心は、目線の高さに木々の梢を眺める2階のLDK。子ども部屋は吹き抜けでリビングとつながる3階に、夫妻の寝室は落ち着いた雰囲気の1階に。プライベートな空間を上下階に分けたことで、家族と一緒のにぎやかな時間と落ち着いた時間の両方が共存する住まいとなりました。

左/3階の子ども部屋。正面の吹き抜けの下がリビングで、吹き抜けごしに家族で会話ができる

右/1階主寝室には、扉で開閉できるコンパクトな書斎コーナーを

子ども部屋は、大きな扉の内側にデスクと収納をコンパクトに設計。手前の空間に布団を敷いて眠るため「片付けて扉を閉めないと寝られない」工夫が凝らされている

敷地をフル活用した縦長のプラン。2階に家族が集まるLDKと水回り、1階と3階にプライベート空間をレイアウトして、子ども部屋とLDKは吹き抜けでゆるやかにつないだ

落ち葉問題をクリアする屋根構造をインテリアに

大開口とダイナミックな小屋組みが印象的なLDKは、環境を丁寧に読み解くことから生まれました。隣家が迫る東西には窓をほぼ作らず、北側の吹き抜け全面を大きな窓にして、公園の緑と光を取り入れることをイメージした河合さん。悩んだのが、自然と付き合う上で欠かせないメンテナンスの問題でした。
「公園はケヤキやイチョウなど落葉樹がほとんど。落ち葉の量が多いので、雨どいがすぐに詰まってしまうことが予想できました。掃除しようにも窓は3階まであるから、高さ7mの雨どいなんてどうやって掃除しようって(笑)」

大きな窓と美しい外観、落ち葉の問題。すべてをクリアするために導いた答えは、北側の一点に向かって三方向から傾斜するユニークな形の屋根でした。一番低い一点で雨水を受け止め、それを外壁に取り付けた縦方向の竪(たて)どいで地面まで流すアイディアです。基準値以上の雨が降るとあえてあふれる設計にすることで、窓面を掃除してくれるというユニークな工夫も。屋根にはフラットな部分がないため、落ち葉が積もることもありません。さらに、立体的なV字を描く小屋組みを室内にそのままあらわすことで、構造そのものをインテリアの一部として見せています。

左/北側の公園から見た外観。落ち葉が積もらず、雨水が1カ所に落ちるように三次元のV字形に屋根を設計した

右/屋根を支える小屋組みを室内にあらわし、ダイナミックなインテリアに。木の厚みや色も空間になじむよう厳選している

「外の自然と室内の人の暮らしを、建築でどのようにつなぐべきか。室内に木の小屋組みをあらわして有機的なカーブを描くことで、外部の自然と響き合うデザインに行き着きました。カーブの形はCGで何度も検証して決めています。デザイン優先に見えますが、面白いことに構造上もこの形がベストだったんです。しかもダイニングテーブルの中央がちょうどカーブの真下だから、椅子から見上げた時に一番きれいに見える。窓に向かって下がっていくので、公園側からのさりげない目隠しにもなっています。機能とデザインの両方を満たす設計になりました」

左/大開口の中央に縦方向の竪(たて)どいを取り付けて、雨水を逃す仕組み。ラインを窓枠と揃えることで主張しすぎないデザインに

右/南側も全面開口にして光を取り入れつつ、珪藻土入りで水を吸う塗料を使って結露を防いでいる

こうして完成した美しい空間の背景には、構造の工夫が凝らされています。天井と壁、床の内側にロの字型の鋼材フレームを入れることで、室内の壁や柱を最小限に抑えつつ耐震性を確保し、ダイナミックな窓と空間を実現。2階のリビングとダイニングの間、吹き抜けから3階の子ども部屋までの間をオープンにつなぐことで、家族の気配や声が伝わる空間となりました。

南北方向の断面図。吹き抜けでカーブを描く小屋組みがちょうどダイニングから美しく見える構造に

風景を引き立てるモダンな素材

大きな窓が切り取る公園の風景は、一枚の絵画のよう。それを引き立てるのが、グレーを中心にまとめたシンプルでモダンなインテリアです。設計時に床や壁はもちろん、キッチンや家具も含めて素材や色をCGで何度も検討。特に試行錯誤したのが、空間の印象を決める床の素材でした。
「天井の小屋組みの存在感があるので、バランスを考えて床はフローリングよりも石やタイルのように硬質な素材、色は木を引き立てる黒やグレーをイメージしました。天然石の自然な風合いが理想でしたが価格が高く現実的ではないし、荷重が増えるから構造上の工夫も必要になる。何か良い素材はないかと探していた時、外壁に採用したことのある素材『SOLIDO』に室内床向けの製品があることを知ったんです」

天井と建具以外はモノトーンで統一したインテリアが、窓の外の緑を引き立てる

セメントの質感を生かした素材であるSOLIDOは軽量で、硬くマットな風合いが持ち味です。室内の床と壁に使える「typeM_FLAT」のサンプルを取り寄せたところ、質感も色味もイメージ通り。ただし実際に踏んでみると、表面に繊維質のものがわずかに毛羽立っていることから、靴下やストッキングが引っかかりやすいことがネックになりました。
「確かにメーカーのカタログでは、素足で過ごす場所での使用は推奨されていませんでした。けれどこの質感は他にはないものだから、なんとか取り入れられないかなと、試しにサンドペーパーで軽く磨いてみたんです。するとさらさらした感触に変わって、素足でも快適に過ごせるようになって。そこで家族で協力して、LDKに使う材料をすべて磨きました。ものの1時間ほどで終わりましたし、家族の思い出になりましたね」
素材にアレンジを加える自由な発想は、建築家ならでは。既存の素材に工夫と一手間を加えることで、心地よい足触りとデザイン性の両方を叶えたのです。

サンドペーパーで滑らかに仕上げ、心地よい肌触りに仕上げた「SOLIDO typeM_FLAT」

床に貼る施工作業はタイル職人に依頼。軽量で持ち運びしやすい上、タイルよりも削りやすい素材で細かいサイズ調整もできることから「これは施工しやすいですわ」と喜ばれたのだそう。SOLIDOの特徴である、セメント特有の白華(エフロレッセンス)の風合いが自然にまばらな表情になるよう職人に並べ順を意識してほしいと伝えましたが「そこまで厳密に意識しなくても、きれいに仕上がりましたね」と河合さん。また、目地のない仕上げが可能だったこともSOLIDOを選んだ理由だったと言います。
「デザイン的にフラットに仕上げたかったことと、目地にゴミがたまる可能性があるので、目地のない突きつけ仕上げにしたかったんです。タイルの場合は目地がないと割れやすくなってしまいますがSOLIDOは頑丈ですし、削ってサイズ調整もできるから目地なしで仕上げることができました」

床を目地なしで仕上げたことで主張しすぎることなく、緑と美しいコントラストを描く

美しくて機能的。建築家ならではのディテール

仕上がった床は裸足で過ごしても快適。石やタイルよりも柔らかく、フローリングよりやや硬い感触で、夏はひんやりとした肌ざわりが気持ちいいのだそう。「子どもたちは床に座ってゲームをするのが定番」という言葉から、快適さが伝わってきます。冬はホットカーペットを敷いているため「熱の影響でフローリングのように反るかもしれない」と覚悟していたそうですが、一冬を越してもまったく変化はなかったと言います。

河合さんの工夫が光るのが、段差部分のディテール。SOLIDOで仕上げた床に段差を作る場合、エッジ部分の境界に「見切り材」を入れると、より滑らかに仕上がります。「僕はこういったディテールが気になって仕方ないタイプなんです」と笑う河合さんは、床材の性質や厚みに合わせて膨大なカタログの中からぴったり合う部材を選ぶのが常。今回は階段のフローリングと2階の床のSOLIDOの段差と、キッチンとダイニングの段差部分にそれぞれ違うアルミ製の部材を使用しました。さりげなくシャープに仕上げた部分に、デザインの個性が表れています。
「自宅なので実験も兼ねて、2カ所に違う見切り材を使いました。キッチンに使った部材は、一般的にカーペット床の切り替えに使うものです。6mmの幅があってSOLIDOの厚みにちょうど合うし、足が当たっても違和感がない。黒を選ぶことで、デザイン的になじませました」

左/階段と2階の間はシルバーのアルミニウムの見切り材でシャープに仕上げた

右/キッチンとダイニングの段差部分。黒い見切り材を使うことで、床に一体感が生まれている

素材特有の変化を楽しんで暮らす

毎日使うLDKの床で気になるのが経年変化。暮らし始めておよそ1年、どのような変化があったのでしょうか。
「前の家のリビングはフローリングだったのですが、それに比べて傷や汚れが目立たないので、子どもたちが飲み物をこぼしたり物を落としたりしても叱らなくなりました(笑)。子どもがにぎやかに走り回る家ですがヒビ一つ入っていませんし、ソファの脚の下のくぼみもない。多少ホコリがあっても目立たない色なのもあって、神経質にならずに過ごせています」

立って作業するキッチンはダイニングに座る人と目線が合いやすいよう、カウンターの内側の床を一段低く設計。IHヒーターの周りにもオイルガードを立てず、家具の一部のようにすっきりと仕上げた

冷蔵庫やパントリー機能は造作収納の中に。扉を閉めると目隠しできるため、生活感が出ない

ユニークなのが、水を使うキッチンまわりは白華がわずかに増えたり、表面がこすれることで逆に減ったりと、生きもののように表情が変わること。「本当にわずかな変化ですが、毎日見ているからなんとなく気づくんです。でもそれも家族の暮らしの痕跡だから、なんだかいいんですよね」。
IHヒーターのまわりはオイルガードをあえて立てずにすっきりと見せていますが、その分、油はねしやすいカウンターや床の掃除はこまめに。「床は、料理の後にささっとウェットティッシュで拭くだけですが、我が家ではシミが気になることはありません」と奥様。「これがフローリングだったら、もっと汚れや傷が気になったはず。SOLIDOは汚れも傷も目立ちにくいから、リビングからキッチンまで同じ床材で統一することができました」という夫妻の言葉には、暮らしで得た実感がこもっていました。

住まいの素材はデザインの一部であり、暮らしやすさを決めるもの。建築家ならではの実験的な試みと快適さを両立した河合さんの住まいは、ひとさじの工夫や遊び心が、楽しく心地よい住まいをつくることを教えてくれます。

※本事例は設計者の判断による施工・加工を含んでおります。製品の使用条件についてはカタログ・推奨施工法をご確認ください。