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家づくりの知識
私たちの外観づくり♯6 Y邸 街に開かれ、子どもたちが遊び回る。家の中にいるのに外にいるみたいな住まい
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「家の中にいるのに、外にいるみたいで楽しい家ですね」。訪れた人が口を揃えるほど、内と外の境界が曖昧で開放的なY邸。子どもたちは庭を駆け回り、縁台では近所の方とお茶を飲む。Yさんご夫妻はこの住まいを建築家・斉藤智士さんとどうつくり上げたのか、家づくりの物語を紐解きます。
家づくりの考え方が「180度変わった」建築家との出会い
若草山の麓の住宅街に建つY邸。新築ながら時を重ねたような落ち着きを感じさせる
近鉄奈良駅から車を走らせ、奈良公園や東大寺参道のにぎわいを抜けると、若草山の麓から続くなだらかな坂にさしかかり、家並みは間遠になり緑が深くなっていく。やがて見えてきたのは、セメントの質感をまとった外壁が植栽の緑となじむ一軒の家。派手に主張しているわけではないのに、通りすがりに思わず目が留まるーーそれがYさんご家族の暮らす住まいです。「よくいらっしゃいました」とにこやかに迎えてくれたYさんご夫妻に導かれ、室内へ足を踏み入れると、中庭の空と緑がすぐそこに広がっている。確かに中に入ったはずなのに、まるで外にいるかのような錯覚に陥ってしまう。「『家の中にいるのに外にいるみたいで楽しい家ですね』と、よく言われます」とご主人。誰もがそう口を揃えるこの開放感のある住まいを、Yさんご夫妻はどのように形にしていったのでしょうか。
外庭(写真左側)と中庭(写真右側)、両方に開かれた開放的な土間仕上げのLDK。外庭の木々と縁台がつながり、室内と庭がひと続きの場所のように感じられる
家づくりのきっかけとなったのは、二人目のお子さんが生まれたこと。奈良駅近くに借りていた家が手狭になり、家づくりを本格的に考えはじめたといいます。「初めは、住宅展示場にもいろいろ行ってみたんです。たしかに豪華で素敵なんですけど、正直あまりピンと来ませんでした。それから地元の工務店さんの物件を見ては、お話を聞きに行ったりしていました」。そんな手探りが続いていた折、通っていた美容室で「建築家に家を建ててもらった」という話を耳にします。紹介を受けて訪ねた建築設計事務所で、家を一緒につくり上げていく建築家という存在を初めて知り、「建築家と家をつくる」という選択肢に出会ったご夫妻。「話を聞くうちに、家づくりに対する考え方が180度変わったんです」とご主人は振り返ります。間取りに暮らしを押し込めるのではなく、家族の価値観や暮らし方そのものを形にしていくーーその考え方に惹かれ、「建築家との家づくり」を掲げる工務店へ相談に向かいます。そこで紹介された建築家のひとりが、SAI工房を主宰する斉藤智士さんでした。斉藤さんの空間に対する考え方、そして自邸を訪ねたときに流れていた温かな空気感。写真で見れば洗練されていて、どこか生活感のない暮らしにくそうな空間にも思えるのに、実際に身を置くと驚くほど居心地がよく、「きっとここでは豊かな暮らしができる」と感じられた。そのどれもに惹かれ、Yさんご夫妻は「この人に建ててもらいたい」と決心したといいます。
家づくりのパートナーは決まったものの、土地探しは難航。折しもコロナ禍で売り物件がほとんど市場に出回らず、ご主人はGoogleマップを頭に叩き込むほど毎日のように土地を探し歩いたといいます。「実はこの辺りは土地探しを始めた頃に見に来ていて、『空き地だけど出ないのかな』と冗談で言っていた場所だったんです。だからパッと売りに出た瞬間に、すぐ電話して押さえてもらいました(笑)」。ご主人の地道な努力が実り、巡り合ったこの土地が、理想の家づくりを叶える出発点になったのです。
庭の縁台に腰を掛けるYさんご家族。「外と中の境界が曖昧で、中にいながら外にいるような家」という最初の要望が叶った日常の風景
「ワクワクする家に住みたい」。その言葉を立体化したプラン
中庭側から見たY邸。SOLIDO typeF facadeの外壁の下、雁行する棟が庭を抱くように囲み、開け放った土間仕上げLDKのハンモックまでが庭の風景とひと続きになる
家づくりにあたって建築家の斉藤さんにYさんご夫妻が伝えた要望は、「ワクワクする家に住みたい」「子どもたちが走り回れる家」「家の中にいながら外にいるような家」。シンプルなこの難題に斉藤さんは、最初のプレゼンでご夫妻の言葉をそのまま立体化したような、中庭を囲む雁行した平面プランを提案したといいます。「見た時に本当に感動して。『これでお願いします』と即決しました(笑)」と、ご主人は当時を振り返ります。
中庭を囲んで斜めに折れ曲がる平面が、子どもたちが走り回れる動線とひとつながりになった空間の広がりを生み出す。LDKから中庭へ、LDKから縁台へ。どこにいても空と緑を感じながら、家族が自然と一つの場所に集まれる。外周にめぐらせた柱と垂れ壁も、構造を担うと同時に土間・軒下・庭を連続するようにつなぎ、内と外の境目をゆるやかにしています。室内に足を踏み入れた瞬間に感じた開放感は、この巧みな空間づくりから生まれたのだとあらためて感じさせてくれます。
ハンモックが吊られた土間仕上げLDKから庭へと続き、室内と外の境界はほとんど意識されない
縁台にお茶の時間、庭に子どもたちの声。街に開かれた家
左/庭先に設けられた縁台。近所の方が気軽に立ち寄り、お茶を飲みながら話し込むことも
右/ポストとインターホンもSOLIDOで造作。外壁と同じ素材が使われることで、家の表情が敷地の入口から連続している
庭先にしつらえられた縁台は、今ではYさんご家族だけのものではないといいます。腰を掛けてお茶を飲んでいると近所の方が自然に声をかけてきて、いつのまにか立ち話が始まる。その傍らで子どもたちが庭や縁台を駆け回り、またその様子を楽しそうに眺めている。「ワクワクする家」「子どもたちが走り回れる家」「家の中にいながら外にいるような家」にしたいというYさんご夫妻の当初の思いがたしかに実現していることが日々の暮らしぶりから伺えます。
キッズルームから望むキッチンとLDK。洗面からダイニング、ソファ、その先の庭まで視線がまっすぐに抜け、床の高さを変えながら家全体がひとつながりに続いていることがわかる
室内に目を移せば、一段高いキッズルームからの眺めは格別で、遮るものなく空と緑が広がります。「ここは斜面になっているので、隣の家などの視線が気にならず、視界がパーンと抜けるんです」とご主人。一見デメリットに思える斜面の地形が、思い切った開口とこの家ならではの伸びやかさをもたらしています。その伸びやかさは、日々暮らし方にもそのまま表れています。季節が訪れれば庭で梅(時にはカリカリ梅も)を漬け、手入れに訪れた植木屋さんと外壁の話で盛り上がることも。Y邸は家族の居場所であると同時に、街に開かれた豊かな時間が流れる場所でもあります。
ねじれ屋根と職人の意地。寝室の壁と家族の笑い声
キッズルームから見上げるねじれ屋根。スチールのフラットバーと木の登り梁が絡み合う、ダイナミックな構造美。壁面は、ご家族でDIY塗装したもの
この家を訪れた建築の関係者が、決まって足を止めて見上げる場所があります。それがねじれるように勾配を変えていく、独特の屋根です。市街化調整区域に風致地区などの規制が重なるこの敷地では、景観を守るため、屋根の勾配にも細かな規定が課されていました。斉藤さんはその条件を一つひとつ読み解き、すべてを満たす答えとしてこの形を導き出したといいます。
勾配の変わり目を受け止める屋根の接合部。スチールのフラットバーと木の登り梁が、ここで複雑に交差する
こうして生まれたのは、軒高を保ちながらも勾配が連続的に変化する屋根です。平屋でありながら部分的に2層分の伸びやかな空間を生み、構造にはスチールのフラットバーを用いています。接合用の鉄板は1枚ごとに角度がすべて異なり、施工にあたった鉄骨屋さんが実寸大の試組みの末に「もう二度とやりたくない」とこぼしたほど。棟上げに3~4日かけても、その日のうちに屋根が組み上がらなかったといいます。
構造や素材にこだわった分、「他でコストの減額を頑張りました」と笑う奥様。寝室の壁は、凝り性で器用なご主人が率先して、家族みんなでDIY塗装したもの。最初はムラだらけでしたが、子どもたちと塗り重ねるうちに少しずつ上達していく時間そのものが楽しかったといいます。職人の意地が結晶した屋根と、家族の笑い声が染み込んだ壁が、ひとつ屋根の下に同居している。それが、なんともY邸らしい風景です。
SOLIDOの壁面に沿わせた棚には、子どもたちの工作が飾られる。セメントの静かな色ムラが、鮮やかな色を受け止める
一枚として同じ表情がないSOLIDO 「本物の素材感」が大切
キッチンに立つ奥様と、庭を背にダイニングでくつろぐご主人。SOLIDOの壁面と木の温もりが共存するLDKは、家族が集まるこの家の中心
この家の特徴を語るうえで欠かせないのが、外壁材のSOLIDO typeF facade(以下本文中、SOLIDO )です。中庭の壁面を覆うセメント素材は、土間仕上げLDKからも寝室からも窓越しにいつも視界の中にあり、朝は植栽の緑を引き立てるキャンバスに、夕方には西日をうけてほのかに色づき、夜にはライトに照らされた葉影を映し出す。ご夫妻にとって手放せなかったのが、パントリー側の上部に設けたFIX窓。「減額案で無くす話も出たんですが、ここは絶対に塞ぎたくないと残してもらいました」とご主人。抜け感に加え、軒先に張ったSOLIDOまで眺めて楽しみたいーーその思いから、斉藤さんとともに減額を拒んだ窓です。後から間接照明まで仕込み、夜もSOLIDOを照らせるようにしたほど。
キッチンからダイニング、庭へと視線が抜ける。SOLIDOのカウンターは、木の壁や庭の緑と並んでも互いを引き立て合う
Yさんご夫妻が最初にSOLIDOと出会ったのは、斉藤さんの自邸を訪ねたときのこと。インダストリアルな質感を好むご主人と、経年で変化していく素材に惹かれる奥様。ふたりの好みが重なったのが、外壁だけでなく室内にも使いたいと思わせたSOLIDOでした。予算の都合で一度は諦めかけたものの、「キッチンカウンターならSOLIDOが使えますよ」という斉藤さんの提案で実現。外壁材ならではの特性で水や汚れを付きにくく、子どもが汚しがちなカウンター下も、固く絞った布でさっと拭くだけで済みます。
左/ダイニングと一体になったアイランドキッチン。側面に張り上げたSOLIDOとステンレスの天板が、杉板の壁の温もりと響き合う
右/キッチンの側面に張ったSOLIDOは、日々のお手入れもスムーズ
洗面では、歯磨き粉の飛び散りが白華(エフロレッセンス)※の色ムラに紛れて目立たず、ざらりとした見た目に反してタオルも引っかかりません。素材としても見た目の良さと日々の扱いやすさを両立しています。
※白華現象(エフロレッセンス)とは、セメントの中に含まれている成分が水に溶け、表面ににじみ出てきて、それが乾いて白い結晶となって残る現象です。SOLIDOは、生産工程の高温蒸気の中で硬化させる際に現れます。
洗面上にしつらえたSOLIDOの壁面と裸電球。光を柔らかく受け止めるセメントの質感と木・真鍮の温もりが美しく調和している
なぜ、これほどSOLIDOに惹かれたのか。奥様に聞くと「家づくりは、何が大切かを見極めることが肝心で、私たちは“本物の素材感”を大事にしたかったんやなと。一つとして同じ表情がなく、風にたゆたう植栽の影まで楽しめる。SOLIDOは、私たちに最高にマッチした素材でした」。その壁はいま、経年変化していく木部や育っていく庭の緑と響き合いながら、家族の時間の背景として、この家にたしかな表情を与えています。
SOLIDO typeMの端材から生まれたコースター。ケイミューの担当者が手づくりしたロゴ入りの一点もので、SOLIDOはこんな小さな形でも暮らしに溶け込んでいる
「何を大切にするかで、選択が変わってくる」。奥様の言葉を引き取るように語ったこのご主人の言葉は、これから家づくりを始める人にとっても、一つの答えを示しているかもしれません。Y邸の縁台では今日もお茶の時間がはじまり、庭からは子供たちの声が聞こえてくる。SOLIDOの壁が朝に夕に表情を変えるように、Y邸もまた、家族とともに、街とともに、これからもゆっくりと育っていくはずです。
建築データ
Y邸(脊梁のいえ)
2024年9月竣工
延床面積:119.30u
設計:建築設計事務所SAI工房 斉藤智士
構造設計:株式会社DIX 辻拓也
施工:株式会社アルフレンテ
外装材:SOLIDO typeF facade (セメント02)





















