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年中快適で家計にも健康にもうれしい
高断熱住宅づくりのススメ

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マイホームを検討中のみなさん、「家の断熱性能」について考えたことはありますか?夏は暑く、冬は寒い日本。特に夏の暑さは年々厳しくなっています。エアコンをはじめとする冷暖房機器を活用するにも、昨今の原油価格高騰の影響による電気代の値上げも気になるところ。そこで考えたいのが、外の気温の影響を受けにくい高断熱住宅です。高断熱な家にすることで家づくりの何が変わるのか、暮らしにどのようなメリットがあるのか、家づくりを始める前に知っておきたい基礎知識を、高断熱住宅づくりのエキスパート・竹内昌義さんに解説してもらいました。

高断熱な家にすると、どんな「いいこと」があるの?

環境とエネルギーに配慮したエコハウスの設計や街づくりを行う「エネルギーまちづくり社」の代表を務めている竹内昌義さん。環境省・経産省・国交省が合同で設立した「脱炭素社会における住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」にも召集された、高断熱住宅づくりの専門家です。

「エネルギーまちづくり社は、高断熱で省エネな住み心地の良いエコハウスを開発して、日本中に広める活動をしています。個人住宅としてのエコハウスの設計や、工務店へのコンサルティング、エコハウスづくりのセミナーを催したり、高断熱な省エネ住宅づくりの施策についての行政への提言などを行っています」

「エネルギーまちづくり社」の代表のほか、建築設計事務所「みかんぐみ」の共同代表、一般社団法人パッシブハウスジャパン理事、東北芸術工科大学の教授も務めている竹内さん

最近は、施主や工務店からの個人住宅の断熱性能チェック相談が増えてきているそうで、その家の断熱性能を計算して、適正な断熱性能にするためのアドバイスなども行っています。

「住宅の断熱性能について、一般の方の意識が高くなってきていることを感じます。今は動画配信サービスなどでさまざまな専門家が住まいの断熱の重要性について解説しているので、その影響も大きいでしょう。高断熱住宅づくりは専門的で難しい内容も多いですが、一般の方にもわかりやすく解説した本なども出ているので、あらかじめ勉強をしておくと、家づくりが進めやすくなるのではないでしょうか」

竹内さんが著者に名を連ねている、断熱やエコハウスについての本。「新しい家づくりの教科書」(発行:新建新聞社)は2016年発売ですが、参考になる知識がたくさん詰まっています

竹内さんがいう通り、「難しい」イメージがある住宅の断熱。断熱性能が高い家にすることでどんなメリットがあるのかについても、「冷暖房費が下がる」以外にぱっと思い浮かばないという方が多いのではないでしょうか。

「一番は、健康な暮らしができるということ。家の中の温度差がなくなると、気温の変化によって血圧が上下して心臓や血管の疾患が起こるヒートショックなどの健康被害を防ぐことができます。また、家が暖かければ冷え性も改善されるでしょうし、風邪も引きにくくなるでしょう。冷暖房費が減るということは、消費電力量が減るということで、世界的な課題である消費エネルギーの削減、カーボンニュートラルの実現にもつながります」

WHO(世界保健機関)は『住まいと健康に関するガイドライン』で、寒さによる健康への悪影響から居住者を守るための室温として18℃以上を勧告しており、ヨーロッパでは「居住者の健康を守る」という観点から住宅の高断熱化が取り組まれているそうです。日本の夏は毎年のように猛暑が話題になり、家の中での熱中症の発生も増加しています。ヒートショックや熱中症などのリスクを減らすことはもちろん、家族が健康に暮らせる家になることは、「家族が風邪をひいてお出掛けができなくなった」「子どもが風邪をひいて看病のために仕事を休まなければならない」といった場面を減らすことにもつながります。冷暖房費が減った分、家族でのお出かけを増やすというのもいいですね。

エネルギーまちづくり社がプロデュースした「山形エコタウン」(施主:株式会社 荒正)の住宅例。吹抜けのある開放的な空間も、高断熱住宅なら寒くありません(photo:エネルギーまちづくり社)

断熱のポイントは「窓」と「断熱材」

では、「住宅の断熱化」とは、具体的に家にどんなことをするのでしょう。

「住宅の断熱性能を左右するのは、断熱材の厚さと窓の性能です。いろいろな種類の断熱材がありますが、一般的なのは高性能グラスウールという素材で、これを外に面した壁や屋根の内側、床の裏に詰め込みます。断熱性能を上げるにはまず、この断熱材の厚みを増やしたり、密度の高いものを使っていきます。そして窓の断熱性能は、サッシの素材とガラスの枚数で変わります。断熱性能の低い順から言うと、アルミサッシ+単板ガラス、アルミサッシ+複層ガラス、アルミ樹脂複合サッシ+複層ガラス、樹脂サッシ+複層ガラスと、断熱性能が高くなっていきます。そうやって、断熱材の厚さと窓の性能を組み合わせて、断熱性能を高めていくのが一般的です。高断熱な家をつくる方法は、実は結構シンプルなんですよ」

充填断熱とも呼ばれる、一般的な内断熱工法の例。柱や間柱の間に断熱材を詰めて、熱の出入りを少なくします

家づくりの情報収集をしていると、「内断熱と外断熱はどちらがいいの?」という疑問を見かけることもあります。構造体の内側に断熱材を張る方法を「内断熱工法」、構造体の外側に断熱材を張る方法を「外断熱工法」と呼び、違いは断熱材が内側にあるか外側にあるかで、断熱性能を比較するものではないと竹内さんは話します。日本の木造住宅では「内断熱工法」が一般的で、「外断熱工法」に比べると費用は安く済みます。鉄筋コンクリート造の場合は、コンクリートは一度温まると冷めにくく、逆に一度冷めると温まりにくい特徴を持つため、長い時間を内部で過ごすことになる住宅は「外断熱工法」のほうが向いているそう。また、構造体の内側と外側、両方に断熱材を張る「付加断熱工法」もあります。

「外壁材や屋根材の断熱性能を気になされる方もいますが、住宅の断熱性能は、基本的には断熱材と窓で決まってきます。ただ、まったく影響がないわけではないので、外壁材や屋根材の断熱性能が気になる場合は、熱伝導率が低いものを選ぶのがいいと思います」

エネルギーまちづくり社が企画・設計を手掛けた『日詰エコハウス』(施主:株式会社くらしすた不動産)。南面に大きな窓を設置し、深い庇を取り付けています(photo:伊藤隆宗)

ほかにも家の外観デザインに関わる要素として、「高断熱な家にするなら、窓が大きい方が効果的です」と竹内さん。実は、窓は住まいの中で熱の出入りが一番多い場所。「窓が大きいと寒くなるのでは?」と思ってしまいますが、どういうことでしょう?

「断熱性能の低い窓だったらそうなるでしょう。でも、断熱性能の高い窓にすれば、家の中の熱を逃しにくく、外からの冷気も入りにくくできます。窓が大きければ、そのぶん冬は日射がたくさん入ってきます。それによって家が暖まり、暖房費と消費エネルギーがさらに節約できます」

窓を大きくすることで気になる夏の日差しについては、窓に庇をつけることでカバーできるそう。庇は、夏の高い日差しを遮りつつ、冬の低い日差しは取り込めるバランスで設置することが大切になります。

家の断熱性能に「このぐらい」という基準はあるの?

次に気になるのは、「どのぐらいの断熱性能の家にすればいいの?」ということ。日本には、耐震性能や耐火性能など、住宅の性能を“見える化”するための「住宅性能表示制度」という制度があり、その中には住宅の断熱性能を評価する「断熱等級」という基準があります。日本は冬に冷え込む地域と冬でも暖かい地域があるので、全国すべての地域は8つに区分されており、地域ごとに各等級で満たすべき基準が定められています。断熱等級はこれまで「断熱等級4」が最高等級でしたが、2022年の建築物省エネ法の改正により、2025年以降に建築されるすべての新築住宅・非住宅に「断熱等級4」への適合が義務化されました。

「今、日本では2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指しています。今回の法改正は、住宅の消費エネルギー削減も目的に行われました。今後、断熱等級4を満たしていない家を建てたからといって罰せられるわけではありませんが、既存不適格建築物ということになり、例えば将来、その家を売却したいとなった時にはマイナス要素になるかもしれません」

「UA(ユーエー)値」(外皮平均熱貫流率)は断熱性能を示す数値で、数値が低いほど断熱性能が高くなります。「ηAC(イータエーシー)値」(冷房期の平均日射熱取得率)は日射取得性能を示す数値で、値が小さいほど住宅内に入る日射による熱量が少なくなります

とはいえ、断熱等級4が次世代省エネ基準として設定されたのは、1999年。その後2000年に住宅性能表示制度が始まったこともあり、それ以降に建築された住宅のほとんどは断熱等級4を満たしていると竹内さんは言います。では、これから建てる家は、これまで通り断熱等級4を満たせばいい……という考えになりそうですが、2022年の建築物省エネ法の改正では、新たに「断熱等級5」「断熱等級6」「断熱等級7」も創設されました。これにはどんな意味があるのでしょう。

「実は、断熱等級4は実際の断熱性能としてはそれほど高いレベルではなくて、ヨーロッパの多くの国では、日本の断熱等級6以上の断熱性能が水準とされています。そして日本政府は、遅くとも2030年までに、住宅の省エネ基準の水準を段階的に引き上げていく方向で検討しています。つまり、今後義務化される断熱等級が上がっていく可能性が高いんです。住宅ローン控除や税金にメリットがある『長期優良住宅』の条件も、2022年10月から断熱等級5に引き上げられました。日本の住宅は今後、断熱等級5以上が基準になっていくでしょう」

建築時のコスト増は電気代の削減で回収。補助金や減税制度も活用を

それでは、今後家づくりをする時は、我が家の断熱性能についてどのように考えればいいのでしょうか。断熱性能の高い家にすることで冷暖房費はどのぐらいダウンするのか、家づくりのコストはどのぐらいアップするのかも気になります。竹内さんは、2021年に開催された「脱炭素社会における住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」で提示した資料(※1)をもとに、説明してくれました。

「省エネ基準標準住宅プランというモデル住宅のプランをもとに、断熱等級4の家と、断熱等級6に相当する断熱基準『HEAT20 G2』(※2)の家を設計して、断熱性能の比較試験を行いました。両方の家の冷暖房を連続空調、つまりつけっぱなしの状態にして試算した結果、断熱等級6相当の家の冷暖房の電気代は、断熱等級4の家と比べて年間約6.75万円ダウンしました」

国土交通省『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会』第2回 竹内委員説明資料(※2)から抜粋
試算条件/地域:東京都 エアコン台数:断熱等級4の家は各室に設置で5台可動、断熱等級6相当の家は1階・2階に1台ずつで合計2台稼働 空調設定:連続空調で暖房22度(起床時)20度(就寝時)、冷房27度 電気代:単価30円/kWhを想定

竹内さんが2021年に行った試算では、【断熱等級4】の冷暖房の電気代は連続空調で124,130円/年、【断熱等級6相当】の冷暖房の電気代は連続空調で56,488円/年で、その差は約6.75万円/年という結果に

この試算では、断熱等級4から断熱等級6相当に断熱性能をアップさせるため、窓は『アルミサッシ+普通複層ガラス』から『樹脂サッシ+Low-e(ロー・イー)複層ガラス』に、断熱材は外に面した壁のみ『密度16K・厚さ90mmのグラスウール』から『密度24K・厚さ105mmのグラスウール』に変更したそうです。「Low-e複層ガラス」とは、熱の伝わりを抑えるLow-E膜でコーティングしたガラスを使い、さらに断熱性能を高めた複層ガラスです。

「増加した初期コストは約70万円で、削減できる冷暖房費と相殺すると10年ほどで回収できる計算になります。建材価格が高騰した現在だと、初期コストは2割ほど上がって約85万円というところでしょうか。ただ、これはあくまで試算で、どこの地域に建てるのか、誰に建築を依頼するのか、どんな断熱仕様にするのか、そして世の中の状況によっても初期コストは変わってきます。費用対効果をよく考えて、納得のいく選択ができるといいのではないでしょうか」

竹内さんは「どこまでの断熱性能にするかは人それぞれの考えによります」と前置きしつつ、エネルギーまちづくり社では断熱等級6以上を推奨していると話します。これから家づくりをする際は、家づくりの依頼先が断熱等級いくつを標準仕様としているのかを確認し、建築コストと居住後に削減できる冷暖房代、そして求める暮らし心地を考えながら、検討していくのがいいでしょう。

「一定の省エネ性能を満たすことで補助が受けられるさまざまな補助金制度や減税制度もあります。そうした制度を利用することでも、初期コストを回収できます。ただ、年度ごとに内容が変わったり期限があったり、自治体ごとに異なることもあるので、あらかじめ調べたり、家づくりの依頼先に相談してみましょう」

「健康になって、電気代も削減できる。さらに地球環境にもいい。高断熱住宅はメリットしかありません」と話す竹内さん

高断熱な家にするからこそできるコストダウンの工夫もあります。たとえば、家の中の間仕切り壁を減らすという方法。家全体の冷暖房効率が上がる上に、エアコンの設置台数も少なくなり、その分の費用が削減できます。あとからリフォームで断熱性能を上げようと思っても、建築時に断熱性能を上げるのに比べてトータルの費用がかさんでしまいます。建築時から断熱性能を高めておけば、そのメリットをずっと享受できることになります。

さらに「高断熱な家にするなら、太陽光発電も採用するのがおすすめ」と竹内さん。自宅で消費する電気を自宅でつくれるようになれば、電気代高騰の影響も受けにくくなります。太陽光発電の設置についても補助金制度を用意している自治体が多く、活用したいところです。

「カーボンニュートラルや省エネのため」と聞くと、難しいことのように感じてしまう高断熱住宅づくりですが、家族の健康や冷暖房費の削減など「日々の暮らしを快適でお得にするため」と捉えると、ぐっと自分ごととして考えやすくなるのではないでしょうか。

  1. 国土交通省、経済産業省、環境省連携『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会』第2回 竹内委員説明資料
  2. 「HEAT20」(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が提言している断熱基準。G1、G2、G3のレベルがあり、2022年に国が断熱等級5以上を創設する前から、高断熱住宅づくりの断熱基準として民間で採用されてきました

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