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やりたいことを諦めない!
予算内で理想の家を叶えるためのテクニック

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注文住宅の家づくりを希望している方は、理想の間取りやデザインなど、実現したいことがたくさんあるのではないでしょうか。一方、完成した我が家でその後を豊かに楽しく暮らすためには、「自分たちの暮らしに見合った予算」で建てることも大切。予算内で理想やこだわりを実現するために知っておきたいコストダウンの工夫を、建築家の青木律典さんにお伺いしました。

建物にかけられる費用から
「諦めない」家づくりを考える

今回お話をお伺いしたのは、注文住宅やリノベーションの設計を手がけるデザインライフ設計室の青木律典さん。デザインライフ設計室では土地探し・中古物件探しのサポートも行っており、不動産のプロと協働して、資金計画のアドバイスや住宅ローンのサポートも行っています。

「食料品や生活用品が値上がりしているのと同じで、世界的な原材料費の高騰や原油高の影響を受けて、建築費も年々上がってきています。新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2018年頃と比べると、2022年現在の建築費は1割から2割ほど上がっているのではないでしょうか」

一級建築士である青木さんご自身もファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーの資格を保有しており、家づくりのお金の相談に応えています

青木さんは、この状況は今後も続くことが予想されると話します。建築費が高くなった分、住宅ローンの借入額を増やすという方法もありますが、無理な借入はその後の生活に影響を及ぼすこともあります。自分たちの暮らしに合った費用で家づくりを叶えるには、どのように進めていけばいいのでしょうか。

「土地代を含めて総額いくらという予算があると思うのですが、そこから土地代と諸経費を引いた分が、“建物にかけられる費用”ということになります。それを坪単価で割っていくと、建てられる家のサイズが出てきます。欲しい広さや使いたい素材といった、“叶えたい”要素を積み上げて見積もりを出すやり方だと、予算に合わなかった時に“諦めること”が増えてしまいます。この時点で提示する坪単価は、ある程度のグレードの仕上げ材や設備機器を入れることを前提にした単価。建築費の相場は情勢によって変わりますし、坪単価もひとつの目安でしかありませんが、そこから考え始めると、グレードを上げるもの、下げるものの調整をしていきやすく、予算にも気持ちにも無理のない家づくりを叶えやすい方法だと思います」

家づくり費用の一般的な内訳の例。本体工事費と付帯工事費と諸費用を合わせた費用が「建築費」となります(付帯工事費用の内訳はハウスメーカー・工務店・施工会社によって異なります)

例えば建物にかけられる費用が3000万円でその時の坪単価が120万円だったら、建てられる家のサイズは25坪ということになります。このサイズは各階の床面積を合わせた「延床面積」のことで、25坪を平米数に換算すると83u弱。青木さんの設計事務所ではこの考え方をもとにお客様と家づくりを進めていくそうで、完成した家の延床面積は25坪前後が多いといいます。

「お施主さまの中には『30坪の家がいいです』と具体的な数字を挙げて来られる方もいるのですが、よくよくお話を聞くと『雑誌でみた家がそのぐらいのサイズだった』とか、『そのぐらいは必要だと知人に言われた』というふうに、数字の根拠が曖昧なことも少なくありません。建物にかけられる費用からの逆算もですが、ご自分たちにとって本当に必要な広さがどれぐらいなのかというところから、設計事務所や工務店と一緒に考えていけるといいのではないかと思います」

約26坪の旗竿地に建てた延床面積約21坪の事例。LDKと寝室、将来は個室にできるスペース、アトリエとして使える玄関、仕切れるDJブースと、小さいながらも夢が詰まった家/「国分寺の住宅」(photo:長田朋子)

ゼロから家づくりをする注文住宅は、お金のことは銀行で相談して、予算や土地が決まってから設計の依頼先に相談するというイメージがありますが、「土地探しや資金計画についてもぜひ相談してほしい」と青木さん。早い段階から相談することで、家づくりの予算を土地と建物にどのように配分するかの目安がつき、予算内で建てるのに適した土地選びもしやすくなると話します。

コストダウンのテクニック

“建物にかけられる費用”をもとに家のサイズを算出した後も、さまざまな設計の工夫でさらにコストを削減していくことができます。そうして削減した分をこだわりを叶える費用に回したり、床面積に還元して増やしたり。床面積がやはり足りないという場合には、その分のコストを設計の工夫で調整していくと青木さん。具体的にどのようなテクニックでコストダウンを図っているのか、解説してもらいました。

テクニック1:建物の形をシンプルにする

家の形をできるだけシンプルにします。例えば中庭のあるコの字型の家など、凸凹している家は外壁の量が多くなり、形が複雑な分、材料の種類が増えたり施工に手間がかかって、コストが高くなってしまうのです。建物を正方形や長方形といった箱型にして、屋根も切妻屋根や片流れなどシンプルな形にすると、コストの削減につながりやすいと思います。

凸凹の少ない箱型に片流れの屋根をかけたシンプルな外形の家/「鶴川の連窓住宅」(photo:中村晃)

外壁材選びはメンテナンスコストにも配慮を

建物の形をシンプルにすると、外壁や屋根をメンテナンスする際に足場が掛けやすく、作業もしやすいため、将来のメンテナンスコストの削減にもつながります。また、劣化しにくく汚れにくい「メンテナンスの手間がかからない外壁材」などを選ぶことも、メンテナンスコスト削減のポイントです。最近は庇や軒のない家も少なくありませんが、庇や軒は外壁の雨汚れを防ぐ役割があります。外壁の美観維持とメンテナンスのコストと手間も減らすために、そういった工夫をすることも大事だと思います。

テクニック2:建物を小さくする

家のサイズを小さくすることが、コスト的には一番インパクトが大きいと思います。材料費は「単価×面積」または「単価×数量」で計算されるので、床や壁の面積が減れば、床材や壁材に加え、見えない部分の断熱材や構造材も減ります。また、作業量も減るので職人の工賃も削減できるわけです。

私の設計事務所では、個室をコンパクトにすることが多いです。子ども二人に6畳の子ども部屋を一室、主寝室は5畳といった例もあります。一般的なサイズと比べるとミニマムですが、それには個室にこもるのではなく、家族が同じ場所で過ごせる家にしたいという意図もあります。そうやって個室を小さくした分の面積を、他のスペースに割くようにしています。

天井を高くして開放感を感じられるようにした約6畳の子ども部屋。将来はロフトをつくって上下2部屋に分ける想定だそう/「高基礎の家」(photo:長田朋子)

テクニック3:間仕切り壁や建具・窓を減らす

間仕切り壁を極力つくらないことも、居室間の建具が要らなくなるため、コスト減につながります。ゲストの目に触れにくい個室の収納は、扉ではなくロールスクリーンで仕切るという方法もあります。窓の数もコストを左右する要素なので、むやみやたらに設けるのではなく、採光や通風に必要な箇所を見極めて最低限にするといいでしょう。

奥のダイニングキッチンと手前のリビングを、腰壁で囲んだ階段でゆるやかに区切った例/「鶴川の連窓住宅」(photo:中村晃)

小さな家でも「広がり」はつくれる!

「建物を小さくすると狭く感じるのでは」と不安になるかもしれませんが、設計の工夫で解決することができます。例えば、ふたつの空間を間仕切り壁ではなく階段で区切って、つながったひとつの空間のように感じさせる。ひとつの空間に天井が高いところと低いところをつくって、広さや奥行きを感じさせる。壁で視線を止めず視線が抜けていく先をつくるなど、そういった工夫を重ねれば、限られた面積でも広がりを感じる空間をつくることができます。

また、私の設計事務所では、リビングの窓辺にカウンターやベンチを設えたり、パントリーにカウンターデスクをつくるなど、個室以外の場所に「一人の気持ちになれる居場所」をたくさん設けるようにしています。居室の数や面積ではなく「居場所」を多くすることで、感覚的な広さが得られます。

テクニック4:仕上げ材でコストを調整する

使う仕上げ材でコストを調整するのもわかりやすい手法です。特に、面積が広い床・壁・天井に使う仕上げ材の単価を下げることは、コストに大きく影響します。無垢のフローリングはいいものですが、予算的に難しい場合は挽き板や突き板のフローリングにもいいものはあります。例えば家族が一番長い時間を過ごすLDKの壁はこだわって漆喰にして、トイレや洗面、納戸の中は安価なクロスで仕上げるというふうに、仕上げにメリハリをつけるのもいいでしょう。

テクニック5:素材の種類を絞る

素材の種類を絞ることは、工事の種類を絞ることにつながります。例えば、鉄骨の階段は「鉄骨工事」で行いますが、木製の階段にすれば床や壁の構造をつくる「大工工事」と一緒に行うことができます。ほかにも、キッチンや洗面に発生しやすい小規模な「タイル工事」をなくして「大工工事」でできるパネル仕上げにしたり、お施主様がDIYでタイルを貼ることにしたり。「大工工事」「家具工事」「塗装工事」「クロス工事」など、家づくりはさまざまな工事に分類されていて、工事ごとに職人の経費が発生し、それらを手配する工務店の経費もかかります。工事の種類を少なくすると、総体のコストを下げやすくなるのです。

天井をボードで塞がず、垂木を現しにした例。「手で触れないところは仕上げをしない」という手も/「国分寺の住宅」(photo:長田朋子)

テクニック6:造作工事を減らして既製品を活用する

注文住宅の家づくりでは、オリジナルキッチンを造作したり、在来工法でこだわりのバスルームをつくることもありますが、ユニットバスやシステムキッチン、システム洗面台など、既製品の使用も積極的に検討したいところ。既製品に面材を変えるなどの手を加えて、造作風に見せることもできます。造作の場合は工事に日数を要しますが、例えばシステムキッチンを採用すれば設置するだけなのでコストが抑えられます。ただ、既製品も安いものから高いものまで幅があるので、必要なスペックを見極めて、予算に合わせて比較検討しましょう。

テクニック7:DIYや施主支給を取り入れる

お施主様によるDIYを取り入れることも効果的です。例えば床面積が70uくらいのフローリングのオイル塗装をするなら、職人にお願いした場合に比べて10万円ほどのコストダウンになることもあります。収納の棚なども、建築時はそのスペースだけを用意して造作工事を減らして、入居後にお施主様がDIYで作るというのもいいと思います。また、お施主様がネットなどで安く材料を購入する「施主支給」もコストダウンのひとつの方法です。

「DIY未経験でもやりやすいのはフローリングの塗装」と青木さん。同じ塗装でも、壁や床は上を向きっぱなしになるので大変です(photo:デザインライフ設計室)

施主支給は事前に相談の上検討を

「施主支給」をする時に考えておきたいのは、トラブルが起きた時のこと。工務店が仕入れた材料だった場合は工務店に対処を相談できますが、施主支給品の場合は、トラブルの原因が商品にあるのか取り付け工事にあるのか、誰が対処するのかがはっきりしにくくなるのです。施主支給をするなら、例えばタオル掛けやトイレットペーパーホルダー、郵便受けなど、その後のトラブルが起きにくいもの、トラブルが起きても自分で対処しやすいものがおすすめです。

また、お施主様が見つけた材料を工務店経由で仕入れてもらう方法もありますが、工務店側で仕入れられるか、取り付けに問題はないか、事前に確認が必要になります。施主支給する場合は、材料を受け取ったり、工事の進行に合わせて現場に材料を支給する必要もあります。工務店が材料を手配する場合は、そういった受け取りやスケジュール調整の手間賃が工事費に含まれています。メリットと手間とリスクを理解した上で、設計者や工務店に相談しながら検討していきましょう。

コストをかけるべきところと、
後からでもいいものを見極めて

さまざまなコストダウンのテクニックを紹介してもらいましたが、建物の性能に関わる部分については、コストをかけるべきだと青木さんは話します。

「基礎や構造や断熱、そして断熱性能に関わる窓の性能。これらはあとからやり直そうと思うと大掛かりな工事が必要になりますし、快適性や安全性にも影響してきます。一方で、後からでも交換できるものや後からつくればいいものは、コスト削減の対象にしやすくなります。例えばひとつ10万円する水栓じゃなくても、必要な機能は満たすことはできると思うんです。お金を貯めてから交換したり、子ども部屋の間仕切り壁も必要になってからつくるのでいいと思います」

断熱性能をしっかり確保しておくことは、冷暖房費にも影響します。近年はガスや電気など、エネルギー費も高騰しています。建物を小さくしたり間仕切り壁を減らすことは、少ない冷暖房機器で効率的に家全体を冷暖房できることにもつながります。

「どれぐらいの費用で家が建てられるのかの見通しが立てにくい時世だからこそ、早い段階から設計依頼先に相談して欲しい」と青木さん

「子どもは成長し、親も年齢を重ねていきます。最初にすべてを完璧にしなくてはと思わず、住みながら暮らしに合わせて必要なものを足していく。そういう考え方も取り入れながら、コストをかけるべきところと削減できるところを見極めていけると、納得のいく家づくりができるのではないでしょうか」

そして一番重要なのは、お金のことを設計事務所や工務店とオープンに話し合いながら家づくりをすること。建築デザインの好みだけでなく、お金のことについても信頼して相談ができるパートナーを見つけるところから始めましょう。

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