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家のかたちには理由がある。 第1回「敷地の読み方」編

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家のかたちは、デザインだけで決まるものではありません。敷地の条件、環境、家族の暮らし方、そして設計者の考え。その一つひとつが重なり合い、必然的な「かたち」が生まれます。この連載では、心地よい家づくりで人気の建築家・若原一貴さんが日々の設計で大切にしている視点を手がかりに、家の「かたち」の背景にある住宅設計の考え方について紐解いていきます。第1回目のテーマは、将来にわたって快適に暮らせる家づくりに欠かせない「敷地」の読み方です。

建築家は、数字や条件だけでは測れない土地の「癖」を読む

家づくりを考えるとき、多くの人が最初に手を付けるのは「敷地選び」になります。その手始めは、おそらく不動産情報のポータルサイトやSNS、ポスティングチラシなどからの情報収集になるでしょう。価格帯やエリアの特性、駅からの距離、生活利便性といった条件を手がかりに、候補地を絞り込んでいく──それはごく一般的で、合理的なプロセスです。

一方、そうした前提条件を踏まえたうえで、建築家の目線から敷地を見ると、少し角度の異なる判断軸が浮かび上がってきます。数値や条件だけでは測れない、その土地ならではの「癖」や環境の読み解きです。こうした視点を知っているかどうかで、家づくりのベースは大きく変わります。土地の特性を丁寧に読み解くことは、地に足のついた家づくりにつながり、結果として将来にわたって快適に暮らせる住まいをかなえるための確かな土台となります。連載の第1回目は、その入り口となる土地の読み方についてお話します。

方位と鬼門は、「環境チェック」として利用する

家のかたちを探る設計の初期段階では、敷地の方位を必ず確認します。施主には風水を気にする方も、まったく気にしない方もそれぞれいらっしゃいますが、私は鬼門についても一応チェックします。ただし、いわゆる風水的な作法を厳密に守るという意味ではありません。設備の性能が向上した現在、水回りの位置の風水的なタブーを気にする必要はほとんどなくなりました。ただ、玄関だけは鬼門に当たる場所をできるだけ避けたいと考えています。

理由は単純で、その方位は日当たりが悪く、午後になると自分の家の影になり、湿気がこもりやすく、外気が直接入りやすい玄関としては良い環境とは言えないからです。また朝、家を出る瞬間に目に入る光は、その日の気分やリズムに影響します。玄関は単なる出入口ではなく、暮らしの始動スイッチでもあります。だからこそ、方位や周囲の影の落ち方を含めて慎重に向きや位置を考えます。

ここで大切なのは、「鬼門だから避ける」という結論ではなく、なぜそう判断するのかという考え方です。方位、日照、湿気、そして使われ方。鬼門のチェックは、住まいの快適性を確認するための、ひとつの環境確認として捉えています。

「北道路」は本当に北か?──方位確認の精度を高める

私が鬼門チェックをルーティン化している理由は、もう一つあります。それは、設計の精度を保つためです。実務の現場では、「北道路」「南道路」という敷地がどの方角の道路に接しているかを示す用語を使いますが、この言い方はときに危うさも含んでいます。北道路だと思い込んでいた敷地が、実は北西に振れていた。完成してからそんなズレに気づいた……などがわかれば、致命的な問題です。

毎回、鬼門を含めてきちんと方位を確認することで、「本当の向き」を意識する癖がつきます。施主に見せる・見せないは別にして、図面データにレイヤーを重ねておけば、手間はほとんどかかりません。こうした小さな確認の積み重ねが、家の前提条件の正確さを保ってくれるのです。

鬼門を割り出すにあたっては「建物の重心を中心とする」というルールがあり、L型など、平面が複雑な建物になると、方位の基準をどこに置くか迷うことがあります。そんなとき私は、スチレンボードで平面模型をつくり、ピンや指の上に乗せ、やじろべえのようにバランスを取ることで重心を探します。数学的に計算するのではなく、物理的に確かめる方法です。形式張った理論よりも、感覚的に腹落ちさせる方法のほうが、設計の現場では役に立つと感じています。

高低差のある土地は、三つの視点で見る

敷地を読むうえで、もう一つ重要なのが高低差の有無です。平坦な敷地では意識する必要がありませんが、敷地と周辺の高低差があるケース、敷地内に高低差があるケースでは注意が必要です。敷地に高低差があるとき、私が必ず意識するのは「地形的なこと」「法的なこと」「施工的なこと」の3点です。土地を見るには、この3つの視点を同時に持つ必要があります。

私がまず行うのは、敷地周辺を実際に歩くことです。車で来て、敷地だけをパッと見て終わりにするのではなく、少し離れた場所からできれば20分ほどぐるぐる歩き回る。そうすることで、その土地が周辺の中で中腹なのか、低い位置なのかといった“地形の立ち位置”や、水や風がどのように流れているのかが見えてきます。

地図や数値より先に、身体で把握する。図面だけでは分からない「土地の立ち位置」を把握することが、設計の前提はもちろん、住むのに適した場所なのかをつかむための最も確実な方法になります。

土地の素性、地盤の良し悪しは「歩いて読む」

造成地では安定した地盤かどうかを左右する盛土・切土を見分けろ、といった話が昔からありますが、近年は地盤改良が一般化し、語られ方も変わってきました。ただ、だからこそ「杭を打てばいい」「改良すれば大丈夫」と最初から考えない方がいいでしょう。技術でカバーできる選択肢はあっても、まずは“住むのに適した地盤”を探す。根本を軽んじない姿勢が、土地選びの判断軸になります。

歩くときの具体的な観察ポイントとしては、たとえば両隣の基礎をよく見ることにしています。苔が生えているなら湿気が多い可能性があるサイン。くぼ地で風が抜けにくい、局所的に湿気が溜まりやすい──土地は単純な形ではないからこそ、周辺の家の“痕跡”が教えてくれることがあります。これはプロの調査というより、生活者の目線でも実行できる実践知です。

次に注意すべきポイントとして挙げられるのが、地面に蓋をして地下の排水路や通水路となった暗渠です。緑道になっているなど見た目では分からず、「感じがいい場所」と思ったら実は暗渠だった──というケースも。暗渠があるということは、そこが元々川であり、地域の中でも水が集まりやすい低い場所である可能性が高いのです。だから絶対にダメ、というわけではありませんが、水は人にとって必要不可欠なものである反面、災害を招く側面もあります。だから技術に頼りすぎず、そもそも川の側から離れる選択肢も含めて検討する、という距離感が現実的です。技術で対応できるかどうかと、住むのに適した土地かどうかは別の問題。短絡的に考えず、土地の履歴と環境を読むことが大切だと考えています。

擁壁コストの現実。「土地に惚れる」前に、確かめること

法的な視点では、斜面地の規制(崖地条例など)が厳しくなってきている点は押さえておきたいところです。土が崩れるのを防ぐために築かれた古い擁壁が更新時期を迎え、建て替えを機に擁壁もやり替えるよう指導されるケースも少なくありません。そのうえ土木工事費が上がり、家と同額の擁壁費用がかかる“あるある”まで起きてしまう。それで本来かなえたかった住まいを手に入れることができなくなってしまったら本末転倒でしょう。

ここで重要なのは、擁壁が「ダメ」なのではなく、優先順位の問題だということです。例えば高台の斜面地からの見晴らしに一目惚れしてしまった、など、どうしても得たい環境があるなら、選択肢から外す必要はありません。ただ、土地探しでは「感じの良さ」に引っ張られやすいからこそ、何にコストをかけるべきなのか、冷静になって優先順位を明確にしておくことが欠かせません。そして、自治体で条件が異なるため、役所への確認は専門家に任せましょう。土地の魅力に気持ちが先走るほど、冷静な確認作業が後で効いてきます。

斜面地は「安い」のか。施工コストの落とし穴

施工の視点ではさらに現実的です。斜面のまま建物は建てられません。墨出し(工事を行う際に、施工図の情報を現場に記す作業)をするためにも、まずは“平らなキャンバス”を用意する必要があります。たとえ段差のあるキャンバスでも、施工可能な平面をつくる工程が増える以上、平地よりもコストが上がりやすい。つまり高低差は「間取りの工夫で解決」の前に、工事の前提条件としてコストに影響するのです。

よくある誤解として、斜面地は土地が安いから総額も下がる、あるいはその分を建物に回せる、という発想があります。しかし土地が半値で買えたとしても、その分、造成や施工が必要で土地の値段に上乗せされたら、総建設費が平地より大きく下がるとは限りません。さらに近年は、工事費の上昇と土地価格の変動があるため、過去の成功例をそのまま当てはめることは危険です。

また、工事車両が入りにくい、敷地内に材料を置く場所がない、下から上へ運ぶ距離が長いといった悪条件がある場合、近くに車両を停めて敷地内まで運搬しなければならないなど、作業効率が落ちます。本が入ったダンボール箱を運ぶことを想像してみると、水平移動と坂の上への搬入では必要な手間が違うことがわかるでしょう。住宅施工は職方の「人工(にんく:1人の作業員が1日に行う仕事量)」でコストを算出するため、結果として見積り額が増えることもあります。見積りはなんとなくの印象で出されるわけではなく、きちんと理由があるのです。購入前に設計者へ相談し、トータルで見積ることをおすすめします。

第1回では、快適な家づくりの土台となる「敷地の読み方」についてお話をしました。土地の条件を丁寧に読み解き、自分がそこで暮らすイメージをしながら情報や条件を整理していく。その積み重ねが、無理のない家づくりの方向性を導き、結果として設計の自由度を高めてくれます。次回は、自分の暮らしから考える「部屋の間取り」の考え方についてお話します。

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