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アール・デコの邸宅で、マリメッコに出会う

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鮮やかな色と大胆な模様で、75年にわたって世界の暮らしを彩ってきたフィンランドのデザインハウス、マリメッコ。約10年ぶりとなる大規模な展覧会「マリメッコ展 模様のちから Marimekko: Art of Printmaking -Beauty, Dream, Love」が、京都に続いて東京都庭園美術館で開幕しました。会場の旧朝香宮邸は、壁や天井、床、暖房器具のカバーに至るまで、模様で満たされたアール・デコの邸宅。そこにマリメッコのドレスやファブリックが加わると、90年以上前の模様と、いまも描き継がれる模様とが、部屋ごとに響き合います。扉を開けるたびに、次はどんな色と模様に出会えるのか。そんなワクワクとともに、展覧会の様子をお伝えします。

模様の展覧会を、模様の邸宅で見る

東京都庭園美術館の正門に、同展のポスターが掲げられている

目黒駅から歩くと、まだ青い葉が茂るイチョウ並木の前の正門に、黄色と赤、緑の模様が躍るポスターが掲げられていました。アンッティ・ケッキの《セッペル》をはじめ、三つの模様が花開いた展覧会のキービジュアルです。門をくぐり、木立の中の小道を抜けると、旧朝香宮邸が姿を現します。本館エントランスを入った瞬間、ガラスのレリーフとモザイクの床、その先にのぞくマリメッコの鮮やかな色に、思わず足が止まりました。

東京都庭園美術館の本館、旧朝香宮邸。1933年に朝香宮家の邸宅として竣工した

本展は、1951年の創業以来3,500種類以上のプリントを生み出してきたマリメッコの美学とものづくりの背景に、ドレスやファブリック、制作資料を通して迫る展覧会です。東京の展覧会の舞台となる旧朝香宮邸は、朝香宮鳩彦王と允子妃の邸宅として1933年に建てられ、2015年に国の重要文化財に指定されました。パリで1925年の「アール・デコ博覧会」に感銘を受けた夫妻は、内装をフランスの装飾美術家アンリ・ラパンやガラス工芸家ルネ・ラリックらに託しました。一方で、建物の設計や家族の居室の多くは、宮内省内匠寮(たくみりょう)の技師たちが手がけています。フランスのアール・デコと日本の意匠が見事に融合しているのが、この邸宅の特徴です。

本展を担当した学芸員の森 千花さんは、この邸宅とマリメッコの出会いに「模様と暮らす」というテーマを重ねています。「旧朝香宮邸もまた、皇族の日常生活が営まれた場所。そこにある模様は単なる装飾ではなく、生活に寄り添う『生きた模様』でした」。真っ白な壁の展示室ではなく、模様とともに暮らした邸宅でマリメッコを見る。そこに、この展覧会ならではの体験があります。

「生き方」を提案した、創業者アルミ・ラティア

マリメッコの歴史は、1951年5月20日、ヘルシンキのホテルで開かれた一回のファッションショーから始まりました。創業者アルミ・ラティアが全財産を投じて開いたこのショーで、大胆な模様を手刷りした一枚のドレスが観衆を魅了したといいます。社名の「マリメッコ」は、「マリのドレス」という意味。特別な誰かのためではなく、日々を生きる女性たちのための服でした。

アルミは繰り返し、「私は服を売っているのではない。ライフスタイルを売っているのだ」と語っていたそうです。ドレスやファブリックの枠を超えて、色と模様のある暮らしそのものを提案する。その姿勢は、デザイナーとの向き合い方にも表れています。「誰もが花柄をプリントしているときこそ、違うものをプリントすべき」と語ったアルミは、ありきたりなものを嫌い、デザイナー一人ひとりの個性を何より尊重しました。若き日の日本人デザイナー、脇阪 克二に贈った言葉は「be yourself(自由であれ)」。

本館1階大広間の展示風景。格天井に丸い照明が並ぶ空間。曲線を描く展示台に、マリメッコの歴史を伝える色鮮やかなドレスが並ぶ

アール・デコの花と、マリメッコの花

大客室。ルネ・ラリックのシャンデリア《ブカレスト》の下に、マイヤ・イソラの《ウニッコ》。奥の大食堂には、アンッティ・ケッキの《セッペル》がのぞく

1階でもっともアール・デコの粋が集められているのが、庭園に面した大客室と大食堂です。大客室の天井にはラリックのシャンデリアが下がり、漆喰の円や石膏のジグザグ模様がそれを取り囲みます。壁の上部にはラパンの壁画、扉にはマックス・アングランによるエッチング・ガラス。この部屋でモチーフとして繰り返されているのは、幾何学的にデザインされた花です。「こういう照明とか、ルネ・ラリックという当時も著名なガラス工芸の作家の方が作られたもので、美術品として扱われるようなものを普通に使っていた」と話すのは、館内を案内してくれた学芸員の早川 典子さんです。

その大客室に、マリメッコの花が加わりました。マイヤ・イソラが1964年に描いた花《ウニッコ》です。じつはこの花柄は、「禁止」のなかから生まれた模様でした。当時のアルミ・ラティアは、本物の花の美しさはプリントでは写し取れないと考え、花柄をコレクションに加えていませんでした。それに挑むように、イソラは花をモチーフにした図案をまとめて描き上げます。アルミはその花々に心を奪われて多くの図案を買い取り、そのひとつがウニッコでした。イソラが描いたのは、本物そっくりの花ではありません。花びらを大胆な曲線に置き換え、細部を省いた、抽象としての花です。90年前のフランスの装飾家たちもまた、花を写し取るのではなく、円や直線に置き換えて描きました。

半円形に張り出した窓から庭園を望む大食堂。天井にはラリックの照明《パイナップルとザクロ》。右手前は、アンッティ・ケッキが2024年にデザインした《セッペル》。ウニッコに寄り添う花輪の図柄

続く大食堂は、来客との会食に使われた部屋です。ラリックの照明《パイナップルとザクロ》をはじめ、ガラスの扉には果物が、暖房器具のカバーには魚や貝がデザインされています。壁を覆う植物文様のレリーフは、イヴァン=レオン・ブランショのデザイン。「食堂なので、照明もパイナップルとかザクロのモチーフがガラスで作られているんです」と早川さん。

この大食堂に置かれたのが、アンッティ・ケッキの《セッペル》です。フィンランド語で花輪を意味するこの図柄は、ウニッコの誕生60周年を記念してデザインされました。ウニッコが描く弧に寄り添うよう、紙を切り抜いて曲線を組み合わせる、ケッキ得意の手法で描かれています。果物と植物の模様に囲まれた実りの部屋に、祝いの花輪がよく似合います。

日本の文様と、北欧の模様

左/1階の小食堂。杉の柾板の天井と床の間を備えた和の趣のある部屋の窓辺に、石本 藤雄の《サラヴァ》

右/2階広間の照明柱。アール・デコ特有の花模様を鉄の装飾にあしらう。背後には、マイヤ・イソラが1964年にデザインした《カイヴォ(泉)》

和の要素がもっとも色濃いのは、1階の小食堂です。宮家の人々が日常の食事に使った部屋で、天井には杉の柾板が張られ、床の間も設けられています。暖房器具のカバーにあしらわれているのは、日本古来の源氏香の模様。この部屋の窓辺に掛けられたのが、石本 藤雄の《サラヴァ》です。石本さんは1974年から32年にわたってマリメッコで活躍しました。京都の桂離宮で見かけた着物、子どもの頃に眺めた水田の風景。石本さんは日本の記憶も、模様の種にしてきました。日本人デザイナーがフィンランドで描いた模様が、杉の天井と床の間のある部屋にすっとなじんでいる。北欧と日本、ふたつの美意識の近さがよくわかる眺めです。

1階の客間から2階の家族の居室へとつながるのが、建物の中央にある第一階段です。美術館の資料に、この階段は「フランス仕立てのアール・デコの空間から『日本のアール・デコ』の空間へ移行する階段」と記されています。階段を上った先の2階広間から、主に内匠寮の技師たちがデザインした家族の居住空間が始まります。「1階はパブリックなスペースなんですけど、2階はご家族のプライベート空間で、この辺とかよくご家族で集まられて、一緒にレコードを聴いたりされていたお部屋です」と早川さんは話します。暖房器具のカバーには日本の伝統文様である青海波(せいがいは)、壁にはコテなどの道具で模様付けを施した左官仕上げ。その照明柱の背後に掛けられたのが、イソラの《カイヴォ》です。フィンランド語で「泉」。井戸で水を汲んでいたとき、落としたバケツが水面に広げる波紋を見つめたことから生まれた図柄です。一方の青海波も、扇形の波を規則正しく重ねた幾何学的な文様。日本の波と、フィンランドの泉。水の動きを描いたふたつの模様が、同じ広間で向き合っています。

2階の第一浴室。床は山茶窯(つばきがま)製陶所のモザイクタイル、壁はフランス産の大理石。窓辺にはエルヤ・ヒルヴィが2004年にデザインした《ルミマルヤ》

模様は、暮らしの細部にまで及んでいます。殿下が使ったとされる第一浴室の床には、瀬戸の山茶窯製陶所によるモザイクタイル、壁にはフランス産の大理石。その窓辺では、エルヤ・ヒルヴィが2004年にデザインした《ルミマルヤ》が外の光を透かしています。冬に白い実をつける木の枝を描いた図柄で、ルミマルヤはフィンランド語で「雪の実」、スノーベリーを意味します。ヒルヴィはその木の枝を探して手に入れ、本物の枝をスキャンして図案に仕立てました。小さな石を一つひとつ並べたモザイクの床と、本物の枝から写し取った白い実。どちらも、手で触れられるものをそのまま模様にしています。

マリメッコが日本で愛されてきた理由を、森さんはこう話します。「日本の生活文化は、着物であれ器であれ、あるいは欄間や襖などの内装でも、生活空間をキャンバスに見立てて文様を描き、日常の道具として使うことに非常に長けています。自然への畏敬を意匠に落とし込むという精神は、フィンランドの自然に根ざしたマリメッコのクリエイションと深く通じ合うものがあります」。

部屋ごとの色、住む人が選んだ模様

左/本館2階の姫宮寝室。竣工当時のまま残る、ブルーを基調にしたメタリックな壁紙の前に、ドレスが並ぶ

中/同・妃殿下寝室。窓の外は、ご夫妻の居室からのみ出入りできるベランダ

右/同・妃殿下居間の展示風景。部屋ごとに異なる壁や調度の色に合わせて、ドレスが選ばれている

2階では、部屋を移るたびに、壁の色と模様ががらりと変わります。家族の居室には、サルブラ社の壁紙「テッコー」が使われていました。殿下寝室はブルーグレー、妃殿下寝室はワインレッド、若宮居間は深いブルー、妃殿下居間はシルバーグレー。その多くは現在撤去されていますが、いまも竣工当時のまま残るのが姫宮寝室の壁紙です。ブルーを基本とした直線と水泡模様のデザインで、光によって微妙に表情を変えるメタリックな輝きを放っています。この壁紙は、妃殿下のアドバイスをもとに、姫宮自身の好みで選ばれたと伝えられています。

妃殿下寝室の暖房器具のカバーは、妃殿下自身がデザインしたもの。家族一人ひとりが自分の部屋の色や模様を選び、ときには自ら図案を描いた。この邸宅の模様は、誰かに与えられた装飾ではなく、住む人の好みと暮らしが映し出されたものだったのです。

左/白と黒の市松模様の床が続く2階のベランダ。奥には赤とピンクのボーダーのファブリック

右/椅子のクッションは、ヴオッコ・エスコリン=ヌルメスニエミが1953年にデザインした《ピッコロ》。市松模様とストライプが共鳴する

寝室を出て、ベランダへ。「こっちが殿下の寝室、こっちが妃殿下の寝室。ベランダから行き来できる、ちょっと動線の不思議な寝室ですね」と早川さん。ふたつの寝室は室内で直接つながっておらず、白と黒の大理石を市松に敷き詰めたこのベランダを通って行き来する造りになっています。窓辺に並ぶ黒い椅子には、ヴオッコ・エスコリン=ヌルメスニエミが1953年にデザインしたストライプ柄《ピッコロ》のクッション。ヴオッコがこの細いストライプで仕立てたシャツ「ヨカポイカ」は、男女を問わず着られる服の先駆けとして世界的な共感を呼びました。市松模様の床に、ストライプのクッション。直線どうしの模様が、気持ちよく呼応しています。

2階の書庫。木の書棚に挟まれた空間に、マイヤ・ロウエカリが2009年にデザインした《シィールトラプータルハ》。フィンランドの市民菜園を描いた図柄

書棚に囲まれた小さな部屋には、マイヤ・ロウエカリが2009年にデザインした《シィールトラプータルハ》が掛けられていました。フィンランドの市民菜園をイメージした大胆な図柄です。都市に暮らす人々が小さな庭を借り、花や野菜を育てる。そんな暮らしの風景から生まれた模様です。かつての宮家の書庫が、明るい庭のように見えてきます。

布が生まれる場所、受け継がれる思想

木の衣装戸棚に掛けられたドレス。部屋の調度と一体になった展示が、かつてここにあった暮らしを想像させる

展示を見て回ると、ドレスやファブリックが部屋ごとの空気に合わせて選ばれていることがわかります。60点を超えるドレスは年代順ではなく、色やパターンを手がかりにゆるやかにまとめられ、各部屋の窓辺のカーテンもマリメッコのファブリックに掛け替えられています。窓辺の布一枚で、見慣れた部屋の印象ががらりと変わる。色と模様が空間にもたらす力を、そのまま体感できる展示です。

左/新館に並ぶ、プリントに使われるスクリーン(版)

右/アートユニットplaplaxによる映像インスタレーション。ヘルシンキのプリント・ファクトリーでプリントが生まれる過程を表現している

新館では、ブランドのものづくりの原点に触れることができます。マリメッコは創業以来、デザインを生み出す部門と、実際に布をプリントする工場をヘルシンキに置き続けてきました。デザイナーとアーティスト、熟練の職人が協働する工場から一枚の布が生まれ、やがて世界中の暮らしに届いていく。アートユニットplaplaxによる映像インスタレーションは、そのプリントが生まれる過程や、色と形の躍動を、色彩豊かな映像で表現しています。

デザイナーの皆川 明さんによるインスタレーション。子どもの頃に折り紙でつくった輪飾りのように、色とりどりの模様の輪が天井から床へと連なる。2階の北側ベランダ(北の間)

そして、本館2階でひときわ目を引くのが、ゲストデザイナーとして参加した皆川 明さんのインスタレーションです。北のベランダへと続く扉の向こうに広がっていたのは、子どもの頃、折り紙を細長く切って輪にし、つなげて飾った輪飾りのような光景。花柄や水玉、ストライプなど、さまざまな模様の大きな輪が天井から垂れ下がり、床の上にもくるりと重なり合っています。ひとつの輪が次の輪とつながっていくように、時代を超えて受け継がれていくマリメッコの理念が表されているそうです。脇阪 克二、石本 藤雄に続く日本人デザイナーとマリメッコとの関わりが、いまも新しいかたちで続いていることを感じさせてくれます。

暮らしに、色と模様を

旧朝香宮邸を歩いてあらためて感じたのは、模様が「特別な日のための飾り」ではなかったということです。家族が食事をする部屋には和の模様があり、レコードを聴いてくつろいだ広間には波の文様があり、それぞれの寝室には住む人が選んだ色がありました。森さんの言う「生きた模様」とは、そういうものだったのでしょう。

90年前の邸宅に残る模様と、75年にわたって描き継がれてきたマリメッコの模様。その響き合いに触れたあとは、見慣れた自分の部屋の壁の色や、窓辺の布、床のタイルも、少し違って見えてくるはずです。

アール・デコ装飾の邸宅に、マリメッコの色と模様が満ちる東京展。11月から12月にかけての金曜・土曜の一部は20時まで開館しているので、仕事帰りに、灯りのともる夜の邸宅を訪ねてみるのもおすすめです。展示を見終えたら、紅葉の色づく庭園をひと巡りするのもいいでしょう。会期は12月20日まで。扉を開けるたびに出会う色と模様を、ぜひ会場で味わってみてください。

展覧会キービジュアル

マリメッコ展 模様のちから Marimekko: Art of Printmaking -Beauty, Dream, Love

会場 東京都庭園美術館(本館+新館) 東京都港区白金台5-21-9
会期 2026年10月3日(土)~12月20日(日)
開館時間 10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)。11月6日・13日・20日・21日・27日・28日、12月4日・5日は20:00まで
休館日 月曜日(10月12日、11月23日は開館。10月13日、11月24日は休館)
観覧料 一般1,400円、大学生1,120円、高校生・65歳以上700円、中学生以下無料(団体料金あり)
※日時指定予約制
巡回 京都文化博物館(2026年7月4日~9月6日)→東京都庭園美術館→ひろしま美術館(2027年1月~3月)ほか
URL https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/20261003-1220_marimekko/