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家のかたちには理由がある。 第2回「間取り」編

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家のかたちは、デザインだけで決まるものではありません。敷地の条件、環境、家族の暮らし方、そして設計者の考え。その一つひとつが重なり合い、必然的な「かたち」が生まれます。この連載では、心地よい家づくりで人気の建築家・若原一貴さんが日々の設計で大切にしている視点を手がかりに、家の「かたち」の背景にある住宅設計の考え方について紐解いていきます。

第2回のテーマは、日々の快適さに直結する家の「間取り」です。第1回でお話しした「敷地を読む」ことが、どのように間取りへとつながっていくのか。今回は、その出発点となるダイニングの話からはじめ、部屋の配置、玄関、階段まで、プランニングの考え方についてお話しします。

まず「生活の中心」を決め、そこから肉付けする

住まいの間取りは、部屋の配置の問題である以上に、その家でどんな暮らしをしたいか、という問いへの答えです。家族がどこでくつろぎ、会話し、時間を過ごすのか。どんな光や風を感じながら、日々を重ねていきたいのか。その手がかりになるのが、第1回でお話しした「敷地を読む」という作業です。敷地の周辺を歩き、眺望や光の入り方、風の抜け方を確かめることは、間取りを考える出発点でもあります。

間取りを考えるときは、まず暮らしの中心になる場所を決めること。そして、そこを核にして周囲の部屋やスペースを組み立てていくことが大切です。私が最初に考えるのは「ダイニングをどこに配置するか」です。なぜかというと、ダイニングは家の中で、寝ている時間を除いたら一日のうちで最も長くいる大切な場所だから。ここだけは絶対に居心地よくしたい。最初のスケッチを描くときは、「どこでご飯を食べるか」というところから始まります。視線の向こうにどんな景色があるか、光や風はどう入ってくるか。そういうことを考えながら、まず「ここが一番いいダイニングの場所だ」という地点を探す。それがプランニングの核になっていきます。

これは、第1回の「敷地の読み方」でお話しした「敷地の周辺を歩く」という話と、実はつながっています。周辺を歩いて感じた眺望や光の入り方が、ダイニングの位置や窓の向きを決める根拠になる。そういう意味で、敷地を読む作業は、すでに間取りの出発点でもあるわけです。

敷地との関係から、どの方向にどんな景色が見えるかを考慮し、ダイニングをもっともいい位置に

スケッチから一歩進んでプランを詰めている段階。各スペースの配置がクリアに

ダイニングの場所が決まったら、そこから、周りに必要な部屋やスペースを肉付けしていきます。ただし、ここでよくある落とし穴があります。「10畳のリビング」「南向きの寝室」「収納は壁一面」みたいに、部屋のスペックをリストアップして、それをパズルのように組み合わせていくアプローチです。しかし、それでは「豊かな暮らしの設計」には到達しません。座った場所から何が見えるか。どんな風が吹いてくるか。光はどこから入るか……そういうことを想像しながら、そこでの過ごし方に合わせた心地よさが備わるように、プランニングすることが大切です。

部屋の配置で、家族の距離感をデザインする

部屋の配置をデザインすることは、家族の関係性をどうつくりたいかという問いでもあります。たとえば、子育て真っ最中の家族と、子どもが独立したシニア夫婦では、プランニングの出発点がまるで違います。こちらは、子育て世帯のために設計した住宅「リンボクテラス」(2023年)の事例です。

家族が集まって過ごすダイニング空間を充実させ、個室は最小限に

子育て世帯では、家族みんなが同じリズムで動いていることが多い。子どものためにやることが大量にある分、家族が自然と集まれる場所をつくりつつ、将来子どもが個室を持てる「変化の余地」も含めて考えていきます。このご家族の場合は、当面は2階の和室で3人で寝て、将来的に子ども部屋をつくる想定で、個室は2つだけに。その代わり、吹き抜けを使って天井の高いリビング・ダイニングをつくり、家族が一緒にいたくなる空間を目指しました。一方、こちらは終の棲家として設計した「北鎌倉の住宅」(2026年)の事例です。

夫と妻の個室を上下階に分け、空間的なクッションに

子育てが終わり夫婦二人になった家では、対応すべき項目が少なくなる分、別の問いが浮かび上がります。この20坪の小さな家の設計では、引き戸を多く採用し、それらを開け放っておくとお風呂とトイレ以外はワンルームのような連続空間にできます。

そのうえで、夫と妻の個室は階を分けました。同じ家にいて気配を感じながら、お互いの時間を大切にできる距離感です。ここでは階高が2.2mと低く、個室は扉で仕切っていないので実際の距離はかなり近い。しかし立体的な構成によって精神的には遠く感じられます。この「空間的クッション」があることで、程よい関係性が生まれました。つまり、間取りは「家族同士の暮らしの距離感を形にする」作業でもあるのです。

将来を深読みしすぎない

「将来のことまで考えて間取りを決めたい」という相談をよく受けます。バリアフリーにしておくべきか、将来的に部屋数を増やせるか、親と同居する可能性は……。気持ちはよくわかります。でも、時間軸というのは予測が難しく、想像した通りにならないことの方が多い、というのが私の実感です。

私が20代の終わりに設計した私の両親の住まい「あがり屋敷の家」(2002年)を実例にお話しします。設計してから25年近く経って、当時55歳だった父が今は80を超え、数年前にパーキンソン病と診断されました。一時期、入院したこともありますが自力で歩行は可能。現在も階段だらけのこの家が「一番落ち着く」と言いながら、明るく暮らしています(笑)

将来に備えることは大切ですが、過剰に心配しすぎると、今の暮らしの心地よさが後回しになってしまうこともあります。まずは、今から気持ちよく暮らせる家をつくること。そのうえで、突発的な変化にも無理なく対応できる余地を持たせておく。それくらいの考え方が、ちょうどいいのではないかと思います。

玄関は「転換の空間」

玄関をどこに置くか。その前にまず、玄関そのものについて考えてみます。玄関は「社会との接点」であり、「家の顔」でもあります。会社や団体に属して働いている方は、帰宅と同時に「外向きの顔」から「内の顔」へと切り替えが必要です。玄関は、そのモードチェンジの場所なんです。

出かけるときは、玄関で身支度を整えて、社会に向かって出ていく。外向きの顔で帰ってきて、玄関に入ることで「自宅モード」に切り替わる。シンプルですが、この転換の空間が、実は日々の生活にはとても大切だということはあまり認識されていないかもしれません。

一方で「玄関不要派」もいます。外と内の切り替えを必要としていない——常に外向きだったり、逆に常に内のままだったり。内外の境界線を必要としないタイプの人には、玄関という機能がそもそも不要なケースもあります。形式的に玄関の広さや位置を考える前に、まずは「その住まい手に一番ふさわしい入口とは何か?」を考えるところから始めましょう。

玄関をハブに、「自宅モード」と「社会モード」の切り替えを

玄関の位置が、生活の動きを決める

玄関の位置を考える際は、道路やアプローチとの関係性に配慮します。ドアを開けたら道を歩く人と目が合ってしまったり、家の中が丸見えになったりすることは、避けたいこと。荷物を置き、落ち着いて鍵を開けられるだけの空間的なゆとりもほしいものです。

また、その配置は、生活動線にも大きく関わります。玄関からリビングへどう向かうのか、個室の前を通らずに家族の集まる場所へ行けるのか、来客の視線が家の奥まで届きすぎないか。外との接点である玄関をどこに置くかによって、プライバシーの守り方や、帰宅してからの動きやすさが変わってきます。玄関は、単なる出入り口ではなく、間取り全体の流れを整える起点として考えることが大切です。

玄関に役割を持たせる、3つのアイデア

玄関に、住む人の個性や暮らし方に合った役割をもたせると、ただ出入りする場所である以上の豊かさが備わります。具体的な事例を3つ紹介します。

例@ コンパクトでも機能を充実させる

最近竣工したばかりの「用賀の小住宅」(2026年)では、コンパクトな玄関にこんな機能を詰め込みました。ポスト、コートかけ(クローゼット)、小さな手洗い、姿見、ロボット掃除機の収納スペース。さらに輻射式の冷暖房機器も設けています。

小さくても、玄関の役割を果たすために必要な機能はちゃんと揃えておく。鏡で身なりを確認してから外に出る、帰ったら手を洗う、コートをかける——こういう動作がスムーズにできるだけで、暮らしのクオリティがぐっと上がります。

コンパクト・高機能な玄関のスケッチ。ポスト・コートかけ・手洗い・姿見の位置を詳細に落とし込む

例A 玄関を風の通り道にする

こちらは宮崎県・宮崎市で設計した「U邸」(2023年)の事例です。宮崎の夏は暑いだけでなく、とにかく湿度が高い、ということで、玄関ホールを「風の通り道」にしました。玄関ドアの横に通風用の窓を設け、洗面所側にも簾戸を設けて、空気が常に流れ続けるようにしています。エアコンをきかせた部屋の間に、あえて冷房しない空間をつくって、そこを風が通り抜ける設計です。自然の風には、機械的に涼しくするのとはまた違った、肌触りのいい涼しさがあります。在宅時間の長い奥様からも好評で、「玄関ホールで過ごすのが一番気持ちいい」と言ってもらっています。

玄関を風の通り道にする間取りのアイデア。板戸の通風口を玄関ドアの左上につけ、背後にある洗面へ風が抜けるように計画。玄関の対面にある洗面の引き戸は簾戸にして、常に通風を確保

例B 玄関をギャラリーにする

こちらは現在、都内で設計中の「T邸」(2027年竣工予定)です。若い夫婦が二人で住む家です。この住まいでは玄関を4畳半ほどの土間スペースにして、ギャラリーのような使い方を提案しました。引き戸を開けると、そのまま展示空間のような土間が広がって、ポスターや絵を飾ったり、アンティークの家具を置いたりできます。こうしたアイデアは、「持ち物スケッチ」から生まれることが多いです。私は、設計の初期に施主の現在のお住まいを訪問して、家具や雑貨を実測しながらその場でささっとスケッチをします。設計中にそのスケッチを見ていると、彼らが生活の中で大切にしているものが、うっすらと見えてきます。そこから「この家の玄関はギャラリーにしよう」というアイデアにつながりました。

ギャラリーにもなる広い玄関土間。住まい手の持ち物をイラスト化することから生まれた間取りのアイデア

階段を「ワクワク」を生む空間に

最後に、階段について。「階段はワクワクをつくりやすい」というのが、私の持論です。階段では、縦に視線が移動して、上に向かうにつれて室内の眺めが変わっていく。吹き抜けと組み合わせると、1階から2階の天井まで視線が抜けて、実際の面積よりずっと広く感じられます。だから、「階段を移動のための手段」としか考えないのは実にもったいない。単なる動線でなく、空間演出の道具として積極的に使いたいところです。

「井の頭の住宅」(2023年)では、階段を上がりきったコーナーを、小さな書斎に仕立てました。階段を上がるにつれてお気に入りの場所が少しずつ見えてくるというように、毎日何度も上り下りする階段に、「ちょっとしたドラマ」を仕込んでおくこと。それだけで暮らしの手触りが変わってきます。階段の位置を決めるときは、「どんな空間体験をつくれるか」を同時に考えることです。

階段踊り場を書斎コーナーと組み合わせた実例

一方で、階段は毎日使う場所でもあります。だからこそ、空間としての楽しさだけでなく、上り下りのしやすさも大切です。私が好きなのは「段数12の階段」です。階高を2.4mにして、踏み面を25cm、蹴上げを20cmにすると、ちょうど12段になる。これが、小さな住まいでは最も上りやすい階段です。階段の上り下りがラクであると同時に、上下の距離感が程よく近く感じられる。13~14段の住まいとは明らかに生活のイメージが変わります。上下が近いと行き来しやすく、家全体を有効に使えるというメリットがあるのです。

階段は、踏み面25cm、蹴上げ20cm、12段だと上り下りがラク

また、次の事例「霧ヶ丘の家」(2017年)のように、階段を玄関とセットで考えることには、色々なメリットがあります。そこを起点に各部屋へ行けるので廊下が不要になります。廊下がなければその分コンパクトに設計できるため、小さな家ではとくに有効な考え方です。

玄関と階段をセットで考え、効率的な動線とスペースのムダの削減を両立

今回は、間取りを考えるうえでの出発点となるダイニングの位置から始まり、家族の距離感、玄関に持たせる役割、階段の考え方までお話ししました。大切なのは、「部屋数をどう振り分けるか」ではなく、「どんな暮らしをしたいか」という問いから始めること。敷地の条件を読み、家族の関係性を考え、日々の動きや空間体験まで含めて配置を決めていくことです。それが、住まいづくりの基本にある考え方です。次回は、暮らしをスムーズに回すうえで欠かせない「収納」の話をしたいと思います。

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